つぼいひろきの住友グループ探訪
住友生命保険
東京本社(東京ミッドタウン八重洲)
住友生命保険の東京本社は2023年2月、東京・築地からJR東京駅に近い「東京ミッドタウン八重洲」に移転した。
目指したのは「出社することで、職員がウェルビーイングになるオフィス」だ。
住友生命保険の東京本社は2023年2月、東京・築地からJR東京駅に近い「東京ミッドタウン八重洲」に移転した。
目指したのは「出社することで、職員がウェルビーイングになるオフィス」だ。
JR東京駅を東側の八重洲口から出ると、正面に高くそびえる地上45階建てのガラス張りのビル。2023年3月にグランドオープンした高層ビル「東京ミッドタウン八重洲」の20~24階に住友生命保険の東京本社が入居している。中央区築地から移転してきた新本社で、窓から西側を眺めると眼下に東京駅や皇居が広がる。東京本社が入る5フロア(一部は共用部)の総面積は約1万7000m2ある。1フロアの面積は4100m2あり、築地にあった旧本社の4倍の広さで、テニスコートに換算すると約16面分にもなるんだとか! 東京駅のすぐ横にあって、この広さは驚きだ。
「特に職員の働くスペースである20~22階は共用部のエレベーターを使わなくても、オフィスフロア内にある階段で移動できるようにしました。出社するだけで1日1万歩以上歩くことがほとんどです」と総務部 総務室主任の山下有也さんが説明する。健康のための毎日のランニングが日課の私にとって、オフィス内にいて仕事をしているだけで1万歩は魅力的だなぁ。それもそのはず、この住友生命保険東京本社は「出社することで、職員がウェルビーイングになるオフィス」を目指しているのだという。
住友生命グループは2023年、新たな長期目標「Vision2030」を策定して、2030年の“自社グループのありたい姿” として「ウェルビーイング(Well-being)に貢献する『なくてはならない保険会社グループ』」を掲げた。ウェルビーイングとは簡単に言うと「身体的・精神的・社会的に満たされた状態」のことを示し、現在では多くの企業が「ウェルビーイング経営」を推進している。
「当社は“住友生命『Vitality』”という健康増進型保険をお客さまに提供しています。これは保険加入者の健康増進への取り組みを応援するプログラムをプラスした生命保険です。この商品を提供する私たち職員がまず健康になるような仕組みを導入すべきだと考えました」(山下さん)
新本社オフィスのコンセプトは「つながる」「ひろげる」「先へいく」だ。これには旧本社の課題を解決する意味合いもあったという。旧本社では部署ごとに部屋が分かれ、同じ部署の人とは話すことがあっても、他部署の人とは交流があまりなかったそうで、社内外に人脈を広げにくい、外部の情報が入手しにくいなどの課題があった。そこで新オフィスは、自分が仕事をしたい場所にデスクを確保できるようにフリーアドレス制を導入。20~22階には「コミュニケーションエリア」と呼ぶワークスペース兼交流スペースを5カ所設けた。約2000人の本社職員が、偶発的に他部署の職員や先輩後輩と顔を合わせて話もできる“チャンス”」をつくっているのだ。
コミュニケーションエリアは図書館のような「ライブラリー」、カフェのような「バール」、アウトドア感覚を楽しめる「ヒルサイド」などテーマごとにインテリアと雰囲気を変えてある。「業務内容に応じて、最適な場所と時間を選択し、生産性高く働けるようにすることが狙いです」と山下さんは説明する。広いフロアを生かして「Vitalityウォーキングコース」という、1周が200mのコースレイアウトを床に表示してある。3フロアで階段も使うと約720mは歩けるコースだ。その階段の壁際には「東京ドームまで3.9km」「六本木まで4.9km」など、都内のランドマークや主要な街までの距離が掲示されている。これを見ると、もし社内で3km歩いたら「東京タワーまで歩いた計算だな」と分かる。
そのほかオープンで交流しやすい空間づくりに加えて、情報通信技術(ICT)を積極的に導入して、ペーパーレスとともに使いやすさを追求している。例えば、最新のWeb会議システムを導入し、プレゼンテーションやパネルディスカッションなどを社内外に配信できる会議室を設置したほか、全国にある拠点向けの研修の配信や、お客さまに情報を届けるため、スタジオを刷新・拡張している。少人数でも対面とリモートを併用できるように個室のリモートワークブースも数多く配置してある。さらに職員同士の新しい交流の機会を増やすため、社内では知らない人同士が一つのテーブルを囲んでランチをする「シャッフルランチ」なども定期的に実施している。これは総勢100~150人が参加するという。
コロナ禍で旧本社では全員が出社する機会が少なくなっていたが、住友生命保険はコミュニケーションのハードルが低い空間づくりを目指して交流の密度を高め、ウェルビーイングに貢献する仕組みを導入してきた。八重洲に移転する前の2022年4月はコロナ禍の余波もあって出社率は49%だったが、新本社へ移転後の2023年4月の出社率は65%と上昇している。最適な場所を選択して働けて、健康になれる――。そんなオフィスなら、誰もが出社したくなるだろうなと実感した。
階段の壁際には、「東京ドームまで3.9km」「六本木まで4.9km」など、都内のランドマークや主要な観光地まで歩いたときの距離と時間を掲示していました。「ウェルビーイング」な会社づくりは日本でも急速に重視されていて、HR総研の調べでは、大手企業で「ウェルビーイングを実施している」との回答が4割で、「実施を検討中」を含めると約8割にのぼります。社会で必要とされながら、いかに充実して働けるか。住友生命の取り組みは今後の経営に欠かせない新たな視点といえるでしょう。