つぼいひろきの住友グループ探訪
住友商事 ベルギー ノースウェスター2洋上風力発電所
住友商事は1919年、住友本社が中心となって設立した大阪北港株式会社がルーツ。
6つの事業部門と地域組織が連携し、グローバルに事業を展開。2014年、洋上風力発電事業に参入。
住友商事は1919年、住友本社が中心となって設立した大阪北港株式会社がルーツ。
6つの事業部門と地域組織が連携し、グローバルに事業を展開。2014年、洋上風力発電事業に参入。
日本でも導入に向けた動きが広がる洋上風力発電。風の力を効率よく発電に結び付けられるだけでなく、景観や騒音問題への影響が少ない。まさにこれからの地球になくてはならない発電技術だ。ボクなりに学びたいなぁという思いから、今回初めて“オンライン探訪”にトライ。ベルギーと日本をネットでつなげて話を聞けば聞くほど、ベルギーに風車を見に行きたくなった!
住友商事が開発・運営するノースウェスター2洋上風力発電所は、2020年5月に運転を開始したばかり。ベルギー沖約52km(水深約40m)の北海海域に建てられていて、世界最大の量産型風車※、デンマークMHI Vestas社製「V164-9.5MW」を23基使用している。この風車、高さが約180mで発電容量は9.5MWというスケールの大きさ。発電所全体の総発電容量は219MWで約21万世帯相当の電力を供給している。青い海の上に真っ白な風車が立つ姿は壮観だ。
パートナー企業のパークウィンド社は、ベルギー最大手のスーパーマーケット、コルホイトグループの洋上風力発電事業開発・運営会社。全店舗分(約1000店)の電力を再生可能エネルギーでまかないたいという夢をもって、洋上風力発電に参画したそうだ。かっこいいぞ。ボクが感動していると、「EUは2050年までに同域内の温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げています。そのため、EUにおける再生可能エネルギーの普及は拡大しています」とベルギー駐在員の島田茂東さん。なかでも急速に導入が進んでいるのが洋上風力発電だ。
ヨーロッパの海は遠浅。陸地から90〜100kmまで海底30〜40m程度の海が広がっている。洋上風力発電は基礎となる柱を海底に打ち込む構造であるため、浅い海は好都合。洋上風力発電に適した地理的条件を持っているというわけだ。また近年、技術革新による風車の大型化が進んでいて、風の力だけで火力発電や原子力発電に匹敵する量の電気が作れるようになっているのだ。
しかし巨大な風車を立てるだけでも大変なのに、それが海の上となると危険度も高い。海での作業はどのように行っているのだろう?
「ハイテクの塊のような機械ですが、一番大切にしているのは自然との調和です。クレーンを使うときは必ず担当者で集まって再度手順を確認、風の強さを確認したうえで作業を進めます。作業中に基準となる風速を上回ると、すぐに作業をストップ。また、安全を含めた段取りは第三者の認定機関が確認します。作業手順や安全基準がチェック項目に合致しているという認証をもらって、はじめて作業を行うことができるのです」(島田さん)
作業員が寝泊まりする据付船には、シャワー・トイレ付きの1人部屋のほか、トレーニングルームやサウナも完備していて快適そう。2週間ごとにローテーションで海上に滞在するためコックが船に同乗。おいしくてボリューム満点な食事を提供しているとのこと。この船に乗り込んだことがある海外の再生可能エネルギーを担当する同社電力インフラ第二部の中野壮一郎さんは、「洋上建設は“屈強な海の男たち”によって行われるというイメージがあるかもしれませんが、実際の現場は男女問わず様々なメンバーが、各々の役割を担い、安全かつスムーズな工事が実施できるよう協力し合っています。ただし、トレーニングルームの重りは大きめでした。屈強な方々向けだと思います。僕は使っていません」と笑う。
クルーは常時80人、2シフト24時間体制で作業を行う。なかなかハードな現場だ。「洋上風力発電所で働くには、国際機関『GWO』が認定するライセンスの取得が必要です。海に投げ出されたときのサバイバル方法や救助方法、火災時の対処など、洋上で事故が起きたときに必要な知識を学びます」と中野さん。巨大な洋上風力発電所だが、非常に細やかな作業で運営されている。その細やかさは、環境への配慮でも伝わってくる。
「海洋生物への影響を最小限にするために、海底に基礎柱を打ち込む際には、騒音対策として基礎柱のまわりに泡のカーテンを作ります(通称バブルカーテン)。海底にリングを沈めるのですが、このリングから泡を出して基礎柱の打ち込み音が極力響かないようにします。渡り鳥の通り道を観察して、鳥が通らない場所に風車を立てるなど、海鳥への配慮も大切です」と島田さん。未来のために地球環境と共生した仕組みづくりは着々と進んでいるのだ。魚や鳥と風車が共存している姿を想像して、ボクは胸が熱くなった。
EUでは洋上風力発電の導入が加速するといわれている。環境への意識が強まったことや、経済効果も高められるためだ。導入が進み技術が発展すれば、国土が海に囲まれている日本にも洋上風力発電が増えるはず。欧州での洋上風力発電事業の経験を、日本で生かす機会が近い将来にやってきてほしい! と思ったオンライン探訪だった。
「V164-9.5MW」の164とは羽の直径のこと。約164mとは、どのくらい大きいかというと、東京タワー(333m)の約半分。高層の建物と同じスケールなのだ。内部はプロペラ式風力発電と呼ばれる構造。最も大型化が可能なシステムだ。ブレードが風を受けて、増速機が発電を行うのに必要な回転数まで増速。発電機で回転エネルギーを電気エネルギーに変換する。昨今、大型の風車や新しい技術が著しく開発されている。今は海底に風車を打ち込む「着床式」が主流だが、「浮体式」と呼ばれる海に風車を浮かせるという技術も出てきた。技術革新は止まらないのだ。
風車の据え付けを行った2020年2月は、ノースウェスター2洋上風力発電所のある北海で関係者も経験したことがないほどたくさん風が吹いたタイミングだったそう。運転が始まっているほかの発電所スタッフは大喜び。一方、ノースウェスター2洋上風力発電所は建設がいっこうに進まず、しかも新型コロナウィルス感染症拡大によりベルギーはロックダウンに。そんな状況下で無事完工にこぎ着けたとお聞きし、取材チームは心から拍手を送りました。たしかに建設中の写真の多くが風の強そうな空と波。そしてベルギー名物「小便小僧」もマスク着用でした!