つぼいひろきの住友グループ探訪
住友理工
技術研究所ショールーム
高分子材料技術、総合評価技術をベースに、高機能な材料を創出し、高付加価値の製品を生み出している住友理工。その研究開発の拠点である技術研究所「テクノピア」のショールームを全面リニューアルした。
高分子材料技術、総合評価技術をベースに、高機能な材料を創出し、高付加価値の製品を生み出している住友理工。その研究開発の拠点である技術研究所「テクノピア」のショールームを全面リニューアルした。
素材のディスプレイが美しい。左のテーブルでは素材の特性を見られる。例えば天然ゴムとカーボンブラックのボトルを載せると、
掛け合わせで通電性・耐油性・耐摩耗性が高まることが分かる。
技術研究所「テクノピア」は2棟からなり、材料開発とその材料を使った新製品の開発を行っている。ショールームには、国内外の顧客や仕入れ先をはじめ、自治体、就職活動中の大学生などが見学に訪れる。
私たちが乗っているクルマには、1台当たり約40種類の防振ゴムが使われている。その防振ゴムで世界トップシェア※を誇るのが住友理工だ。「自動車」だけでなく、「インフラ・住環境」「エレクトロニクス」「ヘルスケア」の4つの領域で、高付加価値の製品を世に送り出している。研究開発の拠点となっている技術研究所「テクノピア」のショールームが2024年の秋に、16年ぶりに全面リニューアルした。
ショールームは、ステークホルダーと一緒に新たな価値を生み出していくための「共創」の場として、材料配合技術の紹介、技術の体験展示、製品の紹介、共創エリアの4つで構成されている。さっそく案内してもらい、材料配合技術のコーナーへ行くと、ガラスケースに400以上のボトルがずらりと並んでいる。ボトルの中身は全て素材だという。実際に現場で取り扱っている素材は1000種類以上あり、その掛け合わせとなると無限に近いそうだ。住友理工では、これらの素材を配合して製品のベースになる材料をつくっている。
「配合のことをレシピと呼んでいます。料理のレシピと同じで、微妙な調味料の比率や混ぜ方、熱の温度や時間で味が変わってくるように、配合も素材の組み合わせでいろいろな性能が発現します。そこが我々の仕事の醍醐味です」と住友理工 研究開発本部 副本部長の木村憲仁さんは説明する。
次は技術の体験コーナーだ。住友理工は様々な高分子材料技術で、音・振動の制御、流体制御、熱制御、電気特性制御などを研究している。体験コーナーでは、実際の製品を通じて、住友理工の技術に触れられる。例えば、地震が起きたときに、住宅が揺れて損傷するのを低減する制震システムに使われているダンパーだ。木枠の対角線上のダンパー内に振動を吸収する特殊粘弾性ゴムを入れてある。ゴムの特性を実感できるのが、見た目はそっくりな2つのゴムボールを同じ高さから落とす体験で、一方は大きく跳ねるのに、もう1つはほとんど跳ねない。衝撃を吸収するゴムの特性が一目瞭然だ。隣にあるのはシートの比較だ。水を垂らすと垂れ跡が残るものと、目を凝らさないと水滴さえ気づかないほどはじくものがある。これは流体制御技術によるものだ。ビル建築や土木現場で利用される搬送用のホースは、土砂やガソリンなどを搬送するため、分子のすき間からの漏出を抑え滑らかにエネルギーロスなく運ぶことが求められる。そのための特殊ゴムにも使われている技術だ。この他、熱制御の技術で遮熱や断熱に利用されている窓用フィルムや、薄い特殊シートでノイズを大きく低減させる音制御の技術など、実際に触れて体験できる。
製品のコーナーに進むと、まずはその多彩さに驚く。自動車や鉄道、住宅、OA機器など多様な分野で、材料に求められる性能はそれぞれ異なる。例えば鉄道車両用の防振ゴムは、新幹線をはじめ国内外で多数採用されているそうだ。重い車両を支えながら振動を吸収し、過酷な環境に耐える高耐久性を持つ。MIFはモーターをカプセル状に覆う放熱防音材だ。発泡材による吸音、遮音効果はもちろんのこと、放熱効果を付与できるそうだ。既存の分野とは違う未来の製品にも出合える。住友理工は1929年の創業以来、防振ゴムやホースの開発を通じて自動車産業の発展を支えてきたが、時代はガソリンエンジン車から移行しつつある。「電気自動車に代われば振動の質も、部品に求められる性能も変わります。樹脂ホースや冷却用配管など多様な技術をさらにブラッシュアップしながら対応していくと同時に、若手を中心に新たな分野の開発も進めています」と新商品開発センター長の杉浦博樹さん。ドライバーモニタリングシステムは、振動がある走行中でも座面の圧力からバイタル情報を推定できるシート型のセンシング機器。計測データから居眠りや疲労の予兆を検知できるものとして実用化に向け開発中だ。生体模倣システムは、医薬品などの効能確認や安全性評価に使用されるシステムで、流体搬送やシーリング、微細加工の技術が生かされており実験動物保護の観点からも動物実験代替ツールとして期待されている。さらにこの日は、ゴルフスイング可視化システムもセットされていた。クラブをスイングすると、AIカメラとセンサーマットの組み合わせにより姿勢と重心の移動やブレをリアルタイムでチェックできるシステムで製品化を目指している。
こうした新開発を創造する場として設けたのが、共創エリアだ。「我々の材料や技術を知ってもらい、お客様の課題を教えていただきながら、どんなことが一緒にできるかを議論する場」で、壁は全面ホワイトボードとして使えるようになっている。
「私はよく料理をするのですが、家では逆にレシピのことを配合って言っちゃうんですよ」と杉浦さんは笑う。探究心の塊。多くの先人たちが過去何十年と研究開発や分析を重ねて莫大なレシピを積み上げてきたからこそ、新たな時代のニーズにも応えられる様々な材料や分析技術が提案できる。随時更新されていく展示もますます楽しみだ。
技術研究所「テクノピア」は小牧本社ビルとは道路を挟んで向かい側に2008年に竣工した。間を結んでいるのは「うたづみらい橋」という名の横断歩道橋。社員が安全に行き来できるよう、そして近隣の方々が使いやすいよう、横断歩道橋を建造して市に寄贈した。地名は「不発」でその由来は、1584年の小牧長久手の戦までさかのぼるそう。自然石やレンガの風合い、緩やかな傾斜が利用する人や町の景観までを考えたものだと感じた。