つぼいひろきの住友グループ探訪
住友大阪セメント 栃木工場

1938年に操業を開始した歴史ある工場。
2009年からは木質チップなどを燃料とするバイオマス発電設備も稼働している。

  • 住友大阪セメント 栃木工場
きれい!! ここは世界遺産ですか!? 'さのまる'がお出迎え ようこそ住友大阪セメント(株)栃木工場へ きれい!! ここは世界遺産ですか!? 'さのまる'がお出迎え ようこそ住友大阪セメント(株)栃木工場へ
石灰石というと「灰色」のイメージだが、栃木工場に近い唐沢鉱山の石灰石は粘土質の含有量が比較的多いため赤茶色がかっており、独特の風景を生み出している。工場の玄関では、佐野市のゆるキャラ「さのまる」がお出迎え。

何を隠そう、高校では建築を専攻していたボク。今では建築とは無縁の生活をしているが、「セメント」はどこか親しみを感じる存在だ。道路や鉄道などのインフラ整備に欠かせないセメントは、実はとても「エコ」な資材なのだとか……。その秘密を探るべく、住友大阪セメントの栃木工場を訪れた。

セメントの主原料となるのは石灰石。栃木工場のある「佐野市くず」は、古くから「石灰の町」として知られ、江戸時代から石灰石が産出されており、江戸城の修復にも使われていたという。そんな歴史のロマンを感じながら、まずは石灰石の採掘場である「唐沢鉱山」へ。約80年の歴史を誇るこの鉱山では、年間300万tの石灰石が産出されている。

鉱山の入り口では、90t級の巨大ダンプトラックがお出迎え。その大きさはタイヤの直径だけでも2.7m。堂々たる重機のたたずまいに、初っぱなからテンションが上がる。山の斜面が階段状になっているのも、鉱山特有の光景だ。「ベンチカット」という方式で採掘しているためにこのような形になるそうで、山頂に向かう途中で眼下を見下ろせば、段々畑がトレードマークの「マチュピチュ遺跡」を思わせる眺めが広がる。これは絶景だ!

しかし、ここに来た真の目的は絶景観賞ではない。そう、鉱山のハイライトである「発破」シーンの見学である。火薬の威力で、一瞬にして1万t以上の石灰石を破砕する決定的瞬間を目撃するのだ。唐沢鉱山では、発破のタイミングは毎日1回、午前11時50分と決まっている。予定の時刻が近づき、固唾をのんで見守るボク……そしてズンッ!という地響き。その瞬間、「あの辺り」と指さされていた岩盤が、砂山のように崩れ去った……。

「砂山のように」とは言ったものの、近くに寄って見てみると、ボクが押してもびくともしないような巨石がゴロゴロしている。これを、段階を踏んで細かく砕いていき、最終的に90mm以下になったところで工場に運ぶのだ。

ここで登場するのが、世界中でここにしかないという「カプセルライナー」。全長約3kmのチューブの中を、石灰石を載せたカプセルが時速32kmで工場へと空気輸送されていく。1時間に300tもの石灰石を運べるそうで、小さなトラックがカプセルの中を走り続けているイメージ。SFっぽさ満点の設備だが、実は「旧ソ連時代の設計」だというから驚きだ。

巨大ダンプは鉱山の華。90t積みの巨大ダンプが整然と並ぶ光景は鉱山ならではだ(左上)。 「キルン(回転窯)」と連結する高さ72mの「プレヒータ」(写真右側のタワー)は、イベント時に美しくライトアップされ、地域の人々に親しまれている(右上)。 世界に一つしかない「カプセルライナー」(左下)。

そんなカプセルライナーをたどるように(チューブは大部分が地中に埋まっている)、今度は工場へ。「セメント製造の良いところは、廃棄物を原料や燃料の一部として活用できること。そのため、工場内でリサイクルがほぼ完結するのです」と教えてくれたのは、案内役の足立泰史さん。

加えて、栃木工場には「バイオマス発電設備」という強みがある。この設備は、燃料の90%以上を、建築廃材などを砕いた「木質チップ」が占めているのが特徴。こうして生まれたエコな電気で、工場に必要な電力をすべて賄っているのだ。セメント1tをつくるのに、栃木工場では700kg弱ものリサイクル資源を利用しているが、この数字は国内でもトップクラスだという(日本のセメント工場全体では471kgが平均)。

エコなセメントづくり

廃棄物が原料に セメントの原料構成は、石灰石7割に対してカルシウム、ケイ素、アルミ、鉄を含む原料が3割。後者のほとんどが廃棄物・副産物で賄われる。

高温焼成による無害化 クリンカ(中間生成物)を焼成するキルン内部の温度は約1450℃。高温で有害物質を分解する。これにより、有害物質の発生を最小限に抑える。

石膏を加えて粉砕 セメントが早く固まり過ぎるのを防ぐために、仕上げの工程ではクリンカに石膏を加えて粉砕する。

セメントの完成!

この工場の中、すべてのものがリサイクルされるのです! おお!リサイクルポーズ!

リサイクルに対する熱心な取り組みは、工場のあちこちから感じ取ることができた。敷地内でも特に目を引くのは、全長62m、直径4.1mの「ロータリーキルン(回転窯)」。この内部では「クリンカ(セメントになる前の中間生成物)」が高温焼成されている。1450℃で焼くことで、廃棄物に含まれているダイオキシンが無害化されるのだ。ちなみに、キルンの表面も400~500℃あるので、そばに寄ると、とてもアツい。

このキルンはわずかに傾いて設置されていて、その中を原料が移動しながら焼成されていくという仕組み。最終的には端っこにある冷却工程に到達するが、ここでクリンカを急速冷却すると、超高温の空気が発生する。「この空気は、チューブを通して『プレヒータ』(キルンの予熱器)へと送られ、エネルギーとして徹底的に利用しているんです」(足立さん)。何ひとつムダにしない「もったいない精神」に感動しきりだ。

様々な設備が緻密に連動する様子は、工場ファンにはたまらないところ。昨年は、期間限定で「はとバス」のプランに加わり、人気を呼んだというのもうなずける。これからも「地球に優しい資材」として、ボクらの暮らしを支えてください!

コンクリートは温かい

「コンクリート」というと冷たい印象を持っていた しかし今回の取材で印象は大きく変わった
セメントの原料は汚泥や廃プラスチックなどの廃棄物も再利用
さらにバイオマス発電の燃料も建築廃材などの これらの廃棄物は各種産業、地方自治体から受け入れ、再資源化しているのだ!
環境に優しい!コンクリートが温かく思えてきました!このキルンの表面は400〜500℃だしね

編集スタッフの取材後記

「発破」という日常生活ではお目にかかれない光景に想像を膨らませ、つぼいさん他スタッフは興奮を抑えつつ取材現場へ向かいました。

静けさに包まれた唐沢鉱山では、整然と並ぶ超大型の建機が私たちをお出迎え。想像を絶する大きさに驚いていると、「大きな鉱山では、こちらの倍のサイズの機械が稼働していますよ」と住友大阪セメントの方から聞き、一同あ然とするとともに見たことのない鉱山の作業風景に期待は高まるばかり。

発破の詳細は本文でお伝えした通りですが、発破が完了した地点に近づいてみると、粉砕された一つひとつの岩の大きさに驚くとともに、そこを行ったり来たりしながら大型建機がリズミカル運び込む様子に終始圧倒されっぱなしでした。

唐沢鉱山を見学する一般向けツアーも大盛況だったとのことですが、何から何までスケールの大きな鉱山では、「異世界」を覗いてしまったような不思議な感覚に浸りました。

トラックというよりも家が動いているイメージに近い鉱山建機。
発破で粉砕された石灰石を動かそうと試みるつぼいさん。(もちろん動きません。)
熟練のオペレーターによってリズムよく石灰石の積み込みが行われている。
年季を感じさせるカプセルライナーと森も異世界感を演出する。

マンガルポ「住友グループ探訪」 ナンバー

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