田中未樹の住友グループ探訪
DUNLOP(住友ゴム工業)
白河工場
タイヤ事業を主軸に、スポーツ用品や産業用ゴム製品などを手掛ける住友ゴム工業。国内最大規模の生産能力を誇る福島県白河市の白河工場では、現在、水素エネルギーと太陽光発電の活用により、製造時のカーボンニュートラルを実現するタイヤ製造の実証実験が進行中だ。水素エネルギーの地産地消に取り組んでいる現場を訪ねた。
タイヤ事業を主軸に、スポーツ用品や産業用ゴム製品などを手掛ける住友ゴム工業。国内最大規模の生産能力を誇る福島県白河市の白河工場では、現在、水素エネルギーと太陽光発電の活用により、製造時のカーボンニュートラルを実現するタイヤ製造の実証実験が進行中だ。水素エネルギーの地産地消に取り組んでいる現場を訪ねた。
白河工場は1997年に国際規格ISO14001認証を取得。2023年に設置された従業員用カーポートに設けている太陽光発電は2MWで国内でも有数の規模。
タイヤ製造拠点は国内では白河工場を含め4工場、海外は7工場がある。
門をくぐると、正面にDUNLOP(ダンロップ)の文字が形づくられた植栽が目を引く。ここは住友ゴム工業の白河工場だ。1974年に稼働した日本最大規模のタイヤ製造拠点で、軽自動車から大型トラックまで月産1万t(ゴム量)を超えるタイヤを生産している。「カーボンニュートラルに向けた取り組みの1つとして、水素エネルギーを活用したタイヤを製造しています」と話すのは、環境戦略推進部で水素プロジェクトを担当する中田延明さんだ。
タイヤの製造は主に6工程に分かれる。原料ゴムとカーボン、薬品を混ぜ練り合わせる「混合」、タイヤの部品をつくる「材料」、部品を貼り合わせてタイヤの原型をつくる「成形」、加熱と加圧で化学反応を起こし強力な弾性ゴムのタイヤに仕上げる「加硫」、さらに「検査」「出荷」だ。このうち混合や材料、成形は電力を消費するが省エネと再エネで脱炭素が可能だ。一方、加硫は200℃もの高温と高圧の蒸気が必要で、電力から得ることが技術的に難しいため、天然ガスが燃料として使用されてきた。「CO2の排出が避けられず、タイヤ製造におけるカーボンニュートラルの最大の課題でした」と中田さんは説明する。
住友ゴム工業では2010年ごろから工場の脱炭素化実現に向けて、電気やマイクロ波加熱など多くのエネルギー転換の方法を検討した。2020年ごろに有力な選択肢として浮上したのが、水素だった。水素は電気を使って水から取り出せるほか、様々な資源から生成でき、燃焼させて熱エネルギーとして利用してもCO2を排出しない。
さらに水素の大きな特長として、「水素を燃焼させて蒸気をつくる方式であれば、熱源となるボイラー以外は既存の設備や長年培ってきた製造のノウハウを生かせる」と中田さんは言う。また、福島県という工場の立地が白河工場における水素利用を後押しする。福島県は、『福島新エネ社会構想』を掲げ、現在再生可能エネルギー導入率が40%以上を占める再生可能エネルギー先進県だ。県内には再生可能エネルギー由来のグリーン水素を製造する世界最大級の施設「FH2R」をはじめ、近隣3つの市町に水素供給拠点がある。
「水素は供給側の研究は進んでいるものの、実際に活用する需要側の実証研究はほとんど例がなく、地域の行政と水素供給会社の協力を得ることになりました」と中田さんは話す。2021年8月に国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業に採択され、2024年3月まで水素ボイラーを活用した実証実験を行った。福島県内の水素製造拠点から水素を調達し、タンクに白河市のシンボルである南湖と小峰城が描かれた水素トレーラーでの輸送や工場内での受け入れ体制を構築。これまでの液化天然ガスに代わる高圧仕様の水素ボイラーの開発などを経て、水素で高温・高圧の蒸気を発生させてエネルギーを転換し、タイヤの製造に活用した。また、従業員が利用する駐車場に2MWの太陽光発電のパネルを設置。2023年1月に、水素エネルギーと太陽光発電を使用して製造時カーボンニュートラルを実現するタイヤの生産を日本で初めて開始した。
こうした実証実験の成果と水素の安定供給やコストといった課題を踏まえ、2024年5月に山梨県が中心となって開発を進めてきた次世代型のエネルギーシステム「やまなしモデルP2Gシステム」の導入を決定した。太陽光発電などの再生可能エネルギーを活用して水を電気分解し、環境負荷が少ないグリーン水素を製造するというものだ。2025年4月からはNEDOの実証としてP2Gシステムによる水素製造装置の運用を開始した。
「出力が変動する水素ボイラーに対して、24時間連続稼働に必要な水素をしっかり供給できるか、また耐久性に問題がないかといった課題の解決に取り組んできました。実証試験では本体に大きな問題は見られなかったものの、排気ガスを管理するために設置していた付随の小型センサーが凍結するという事態が発生しました」(中田さん)
こうしたこともあり、水電解の実証ではNEDOと相談してもう1年冬場の検証をする予定だという。9カ月間の稼働で水素の製造量は40tという大規模な実証になった。それでも現時点で水素ボイラーが担うエネルギー量は、白河工場全体から見れば数%に過ぎず、小さな一歩にとどまっている。だが、課題を一つひとつ克服していくことが、脱炭素につながる。水素をつくって使う、地産地消モデルを構築し、カーボンニュートラルの実現に貢献していく考えだ。
白河工場を訪れて、その広さとともに目を奪われたのは周辺の豊かな緑です。国内の各事業所が「住友ゴムGENKIの森」として森づくり活動をしているのだそうです。白河工場の里山は約15万m2で、総務部の品質推進班と社員ボランティアの手により、これまで約100種、1万本余りの樹木を植え、木の手入れや下草を刈るなどの整備を行ったそうです。環境負荷を減らすことと、生物多様性を保全する環境づくりが行われている場所なのだと感じました。