住友と共創 ~ビジョンを描く~

明電舎

環境性能に優れた真空遮断器で電力インフラの未来を拓く

電気・電力が欠かせない私たちの暮らしの中にあっても、高圧電力系統に使われる「遮断器」を意識することは少ないかもしれない。しかし、この遮断器がなければ高圧電線の漏電や過電流などによる大事故は防げない。そんな欠くべからざる“電力の守護神”をめぐって今、大きなイノベーションが進行中だ。

明電舎はSF6ガスを使わない真空遮断器の高電圧対応で世界をリードする

主流の絶縁系「SF6」が温室効果ガスに認定

電力系の遮断器には、高圧電力の中でも低い電圧には真空遮断器が、高い電圧になるに従って「SF6ガス」(六フッ化硫黄)が長年使われてきた。SF6ガスには優れた絶縁性があり、遮断時にアーク(電弧)を素早く消す性能を持ち合わせていた。このため高電圧遮断器の小型化も可能になり、理想的なガスとみなされていた。

しかし1997年の「京都議定書」で、SF6ガスは温室効果ガスに指定された。その地球温暖化係数(GWP)は「二酸化炭素の2万3500倍」という衝撃的な数値だったのだ。

気候変動対策が世界的な喫緊の課題となる中、米国カリフォルニア州は2025年1月からSF6ガス機器の規制を開始した。欧州でも2028年から段階的に規制が強化される。電力インフラを支える遮断器業界は、大きな岐路に立たされた。

真空で「高電圧に対応する」を選択

「真空遮断器」で国内外トップレベルのシェアを持っている明電舎は、真空遮断の技術を「高電圧にも応用する」という、“離れ業”的なイノベーションに乗り出した。真空遮断器はガスを使わず、真空中で電極を切り離して電流を遮断する。絶縁媒体にもSF6ガスではなくドライエアを使用することで、温室効果ガスの排出ゼロを実現できる。

しかし、従来は高電圧への対応が難しかった。真空遮断器の心臓部は「真空インタラプタ」(VI)と呼ばれる部品だ。この性能を高めるには、図面通りに作るだけでは不十分で、金属加工面などで特殊な処理が必要となるからだ。

高電圧対応は遮断器の心臓部「真空インタラプタ」(VI)の精度が決め手となった

「コンディショニング」と呼ばれる工程もその一つ。製品に高い電圧をかけたり大電流を流したりして、電極の接点を鍛え上げるイメージだ。この技術的ハードルに、明電舎は果敢に挑んだ。

大電流を流す「電流コンディショニング」では、銅とクロムの電極材料を溶かして急冷することでクロムの「微細分散層」を形成し、耐電圧性能を飛躍的に向上させることができた。また「電圧コンディショニング」では、高電圧をかけることで電極表面の微細な突起を除去し、表面を平滑化することで更なる高電圧化が可能となった。

この2つの処理を「最適なバランスで行う技術」を編み出したのが、明電舎の強みだ。その見極めには長年のノウハウの蓄積が欠かせない。

生産面の技術・管理力で発祥の米GEを超える

明電舎は1960年代に、米ゼネラル・エレクトリック(GE)と技術提携して真空遮断器の開発に着手した。当時の米国では生産技術に課題があって真空処理がうまくいかず、製品化に苦戦していた。しかし明電舎は、その課題を生産技術面での緻密な設計と製造時の管理能力で克服したという。日本の製造業ならではの力を発揮した事例だといえそうだ。

1970年代には同時にSF6ガス遮断器の開発も進んだが、SF6ガスが温室効果ガスと認定されたことを受け、2000年代に入って、SF6ガスを使用しない真空遮断器の高電圧化という、誰も成し遂げていなかった領域へと踏み出した。2007年には72.5kV(キロボルト、以下kV)級のドライエア絶縁タンク形真空遮断器を米国市場に投入。そして2020年には145kV級を実用化した。現在、204kV級では「2点切り」という2つの真空インタラプタを直列に配置する方式で、電圧を分担させる技術を確立している。

メンテしやすさで極寒のアラスカでも活躍

温室効果ガスが外部に漏洩する懸念もなく、メンテナンス性にも優れる。極低温条件でのSF6ガスは液化して機能しなくなる恐れがあるが、ドライエア絶縁真空遮断器にはそのリスクがない。米国アラスカのような極寒の過酷な環境下でも20年以上、重大な不具合なく稼働し続けているという。

米国アラスカに設置されている真空遮断器

こうした長所と技術力が評価され、明電舎の真空遮断器は世界で評価されるようになった。国内外で4000台以上、特に北米では2000台以上の納入実績を誇る。競合他社の多くはSF6ガスに代わる代替ガス(NOVECガスやCO2)を使った製品開発を進めているが、ドライエア絶縁による真空遮断器で高電圧化を実現した企業はほとんどない。明電舎は世界でも稀有な存在となった。

2025年1月に米国でSF6ガスの規制が始まった後、販売は着実に伸びている。欧州でも2028年の規制開始に向けて準備が進む。市場は年率3〜5%で成長しており、電力設備の老朽化更新と環境対応が追い風となっている。特に、地震の少ない欧州では、支持碍管のセラミックの中に真空インタラプタを縦に並べた碍子形真空遮断器の拡大を目指す。

碍子型は地震の少ない欧州市場での拡販を目指す

真空技術を磨き、更なる高電圧対応を推進

技術的なハードルは高いが、明電舎は真空遮断器の更なる高電圧化と大容量化に挑むという。

同時に、環境配慮設計にも注力する。小型軽量化、高効率化、リサイクル・リユースの推進、禁止化学物質の不使用。製品のライフサイクル全体でCO2排出量を見える化し、環境負荷の少ない製品開発を進めていく考えだ。

明電舎も2050年のカーボンニュートラルを長期ビジョンに掲げ、「第三次明電環境ビジョン」を打ち出した。①自社事業活動の脱炭素化、②製品・サービスによる顧客・社会の脱炭素化、③社会インフラのグリーントランスフォーメーションを支える技術の創出という三本柱で脱炭素社会の実現に貢献し、電力インフラの未来を照らし続けようとしている。

 ジャーナリスト三河主門が住友のDNAを探る
住友の事業精神に「不趨浮利(ふすうふり)」という言葉がある。浮ついた利益拡大よりも長期信頼を優先し、確実を旨とする時代の変遷に適応しつつ、安易な利益を追わない姿勢を示す言葉だ。明電舎が真空遮断器の高電圧化に取り組み始めた当時、SF6ガス遮断器が市場の主流であり、価格面でも優位だった。利益だけを考えれば、ガス遮断器を選ぶ選択肢もあったはずだ。しかし明電舎は、地球規模の環境問題の解決という長期的視点に立ち、真空遮断器という困難な道を選んだ。
規制が始まり、社会の環境シフトが進む中、不趨浮利という住友の事業精神に追い風が吹き始めた。住友グループの基本にある「自利利他 公私一如」(自らの利益と社会の利益を一致させる)も、脱炭素社会の実現に欠かせない精神だろう。電力インフラの安全性・信頼性を長期的に担保し、社会から求められる「安心・安全・持続性」を提供する。明電舎の真空遮断器の開発ストーリーにも、住友の事業精神が脈々と息づいているのを実感した。
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