テーマ2
SDGsと住友「気候変動」

 ワンポイント解説
2019年10月に日本を襲い、死者や行方不明者を出すなど各地に深刻な被害をもたらした台風19号。気候変動による海水温の上昇によって、2019年の台風19号のような強力な台風の発生頻度が増えることやその際の水害が懸念され、気候変動対策としてSDGsの重要性が語られることも一段と増えています。SDGsは、気候変動を深刻かつ重要な課題として捉えており、目標13の気候変動はもちろん、目標1の貧困の撲滅や目標2の飢餓の撲滅のターゲットの中でも、気候変動に触れています。
台風による大雨の影響を予測し被害を抑えることに期待が持てる、明電舎の下水管の水位を予測するマンホールや、気候変動問題等の解決に貢献する投資を推進するSMBC日興証券のサステナブルファイナンスなど、多岐にわたる住友グループの気候変動に対する取り組みにも注目が集まっています。

日経BPコンサルティング
SDGsデザインセンター長
古塚 浩一

住友大阪セメント

工場の立地や地域性に考慮した、最適なバイオマス発電の稼働

住友大阪セメントでは、全国3つのセメント工場と住友林業などとの共同事業である八戸バイオマス発電で木質チップや汚泥などを燃料や補助燃料としたバイオマス発電を行っている。写真は栃木県佐野市にある栃木工場の発電施設。

地球規模での気候変動を緩和する対策として、最も有効と考えられているのが各種温室効果ガスの排出削減だ。特に二酸化炭素(CO2)に関しては、削減から回収・資源化まで幅広い分野で対策が講じられてきた。

そうした中、高い有効性と持続可能性で注目を集めているのがバイオマス発電である。バイオマス発電とは、生ごみや間伐材など生物由来の有機物資源(biomass)を燃料に使う発電方法で、燃焼の際には当然ながらCO2が排出されるが、原料となる有機物が成長過程でCO2を吸収しているために総量としては相殺される点(カーボンニュートラル)や、風力や太陽光発電のように気象条件に左右されることがない点などが評価され、日本でも導入する企業が増えている。住友大阪セメントは2004年から同業他社に先駆けてこれに取り組んできた。
同社におけるバイオマス発電の特徴は、各工場の立地や地域性を考慮した上で、それぞれに最も適した発電方式を導入している点にある。

高知工場では、年間2万t弱の間伐材を自社で破砕して燃料に使用している。

例えば、高知工場にある2基の発電施設のボイラーは流動床ボイラーを採用している。流動床ボイラーは多種多様な燃料に対応可能であり、高知工場では建築廃材と間伐材の両方を使用している。高知県は森林面積割合が全国1位の約84%であり、高知工場は地元の林業事業体と連携することで安定的にバイオマス燃料の供給を受けることができる体制を整えてきた。四国地方の間伐材は長らく製紙原料として使われてきたが、2000年ごろから全国的に紙の生産量が減少し続けているため、需要が低下している現実があった。その余剰分をバイオマス燃料にすることで、森林資源の有効活用と林業の持続に貢献しているのだ。

また、兵庫県にある赤穂工場の発電施設では、微粉炭だきボイラーを使用しているため、バイオマス比率は2%にとどまっている。しかし、その4分の3程度を下水道の汚泥を原料とする固形燃料を使用している点に大きな特徴がある。この燃料は大阪市が進めている平野下水処理場汚泥固形燃料化事業で生産された炭化燃料化物などである。現在、下水汚泥はカーボンニュートラルなバイオマス資源として注目を集めており、新規開発された燃料を安定的に利用するのもSDGsの理念に沿った施策の一つといえるだろう。

そして、栃木工場の特徴は、バイオマス比率が93%という高比率で稼働している点にある。バイオマス発電を導入した2009年には65~70%だったものを、施設や運用面の改善を進めることで同社随一のバイオマス比率の実現に成功した。また、同社が住友林業などと共同で設立した八戸バイオマス発電株式会社の発電施設は売電専門の発電施設で、主に間伐材を材料としている。現状、一部を輸入材(PKS)に頼っているが、今後は国内材100%にする方向で検討中だ。

現在、国全体でCO2削減の施策が検討されている中、一事業者としてどのように貢献していけるのか――。今後も研究を重ね、世界的な動向を注視しながら同社独自のSDGs事業として継続していく考えだ。

間伐材の多くは工場近くの山から調達されており、地元林業の維持にも貢献している。

住友建機

製品稼働時のCO2排出量に着目し、主力建機の燃費改善でCO2削減に貢献

建設機械と聞くと、土埃の舞う現場のイメージから、大量のCO2を排出しながら黙々と作業を続ける機械という印象を多くの人が持っているかもしれない。しかし近年は環境意識の高まりとともに国の規制も厳しくなり、CO2排出量の少ない低燃費型建機の普及が進んでいる。住友建機はSDGsが採択される以前から、燃費性能が高い建機を主力製品として脈々と作り続けてきた。

低燃費型建機の省エネルギー技術は、世界各地の現場でCO2排出削減に貢献している。

メーカーにおける環境活動というと、まずクローズアップされるのが生産現場だ。それまで住友建機は製造工程でのCO2排出削減にも取り組んできたが、製品がエンジンを搭載する機械だけに、建設機械の燃費改善には従来から取り組み、開発コンセプトの大きな柱にしていた。

まず、すべての建機の中で最も出荷数の多い20tクラスの油圧ショベル「SH200-5」の開発では、燃費を従来機比20%削減することに成功した。「SH200-5」は審査が厳しい省エネ大賞において新たなエンジンと油圧システムの制御システムによる環境性能が認められ、2007年に建機として初めて省エネ大賞を受賞する。その後も燃費改善を進め、2013年に「SH200-6」、2018年に最新機種の「SH200-7」が優秀省エネルギー機器として日本機械工業連合会会長賞を受賞した他、2014、2016、2017年の3度にわたりグッドデザイン賞を受賞した。これらの受賞は、エコフレンドリーな建機メーカーとしてのブランドイメージを世界的に広げることにもつながっている。

同社の試算によれば、「SH200-5」が主力だった2007年を基準年とした場合、燃費がさらに改善された「SH200-6」、「SH200-7」投入後の2018年時点でCO2排出量は全世界で4.0万t、6.4%削減されている(同じ台数・稼働時間を仮定)。国内・海外の3工場で生産時に排出されるCO2が年2.7万tであることを考えると、その全量を回収して余りある数字になっている。こうした数字を可視化することで、市場での評価に加え、開発陣をはじめとする従業員のモチベーション向上にも効果が出ている。

燃費だけでなく作業性能向上によるサイクルタイム短縮にも力を入れている。短時間で多くの作業をこなせるようになれば、より多くのCO2削減に貢献する。同社では2007年比の燃費改善とほぼ同量のCO2削減を達成すると試算している。今後は燃費改善を加速させるとともに、ICTを活用した現場の効率向上、さらには部品再生などの新ビジネス創出によっても環境貢献を進めていくことを視野に入れている。

基本となる「SH200」型で実現した省エネルギーの技術は、様々な現場で活躍する応用機種にも搭載され、グローバルに活躍している。

SMBC日興証券

グリーンボンドの引き受けを通じ、気候変動対策への貢献を推進

環境対策に取り組む企業の資金調達を債券市場が支える動きが出てきた。現在欧州を中心に発行が増えているのが、資金使途を環境改善に資する事業に限定して発行する債券「グリーンボンド」だ。国内では2018年3月に日本証券業協会が「SDGs宣言」を発表し、推進目標を掲げたことで、業界全体でSDGsへの取り組み推進に向けた機運が高まっている。その中で、SMBC日興証券は2018年9月にSDGsファイナンス室を設立。本業を通じて顧客企業のSDGs貢献事業をサポートしていく姿勢を明確に打ち出した。

資本市場本部内に設立されたSDGsファイナンス室のメンバー。起債の相談や勉強会などで全国を飛び回る毎日だ。

2018年のESG投資は世界全体で約3400兆円に達する。日本は2014年時点で1兆円程度だったものが、2018年には232兆円へと急拡大。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG投資の強化を公表したことがきっかけとなり、さらに広がる様相を見せている。環境、社会等の課題解決に貢献する事業に使途を限定した債券は「ESG債」と呼ばれるが、実は統一された定義は存在しない。一般的には環境改善効果が期待できるプロジェクトに限定した「グリーンボンド」と社会課題に貢献するプロジェクトに限定した「ソーシャルボンド」、そして両者の要素を併せ持つ「サステナビリティボンド」の3つがESG債と捉えられている。ちなみに日本証券業協会では、この3つのボンドを含め、SDGsに貢献すると考えられる組織が発行し、改善効果を開示する債券を「SDGs債」と総称する。

ESG債の発行により、企業は資金調達だけでなく、企業価値やブランドイメージの向上効果も期待できる。SMBC日興証券ではESG債の情報提供と起債の提案、起債までのサポートを手掛ける他、ESG債に関する勉強会を全国各地で開催するなど啓発活動にも力を入れている。これにより気候変動対策はもちろんのこと、再生可能エネルギーや産業の技術革新など多方面から環境改善に貢献できるという考えだ。

同社は1999年にエコファンドの取り扱いを始めるなど、SDGsが採択される前から環境に対する意識が高く、他に先駆けて取り組みを進めてきた。三井住友銀行が2015年に日本の民間企業として初めて発行したグリーンボンドを引き受けたのもSMBC日興証券だ。2019年7月には、明電舎が電気自動車(EV)用モータ・インバータの量産設備を使途として起債した発行額60億円のグリーンボンドを引き受けた。これはEV関連の製造業としては国内初となるシンボリックな案件であり、製造業が多い日本におけるグリーンボンドの普及にドライブをかけるものと期待されている。

SDGsファイナンス室設立から1年が経過した現在、SMBC日興証券では企業からのニーズの増加に手応えを感じているという。気候変動対策への関心は投資家だけでなく消費者にも広まっており、同社は今後も本業を通じた貢献を推進する構えだ。

ESG債に対する関心の高まりを受け、SDGsファイナンス室では勉強会を積極的に開催して啓発を進めている。

明電舎

下水管内の水位をIoTで可視化し、気候変動時代の水害対策に活用する

巨大な台風が相次いで襲来し、いわゆるゲリラ豪雨も増える中、下水が道路などにあふれる被害が深刻な問題となっている。マンホールなどの設備を含めた全国の下水管の総延長は約47万km(2017年度末)もあり、その水位監視と情報管理は都市型水害対策における重要なテーマだ。明電舎は2016年、下水管内の水位をリアルタイムに可視化するIoTデバイス「マンホールアンテナ」を製品化した。

マンホール蓋を換えるだけで下水管内情報の「リアルタイム見える化」を可能にするIoTデバイス「マンホールアンテナ」。これまで全国100カ所以上に設置している。

「マンホールアンテナ」は、マンホールの蓋に取り付けたセンサーで下水管内の水位をセンシングし、携帯電話網などの通信を使ってクラウドに送信・収集する製品だ。設備はバッテリーで駆動し、従来のマンホールの蓋を置き換えるだけで使用できる。同製品を使えば離れた場所から水位を把握できるため、自治体職員などが確認で現場に赴く必要がなくなり、迅速な水防活動に役立てられるのがメリットだ。

明電舎は以前から下水処理場のプラントをセンサーで監視するサービスを提供しており、その技術を下水管に応用することで水害対策に貢献したいと考えていた。そこで下水管についてのノウハウを獲得するため、熊本市と共同で実際の下水道に「マンホールアンテナ」を設置する実証実験を展開し、製品化にこぎ着けた経緯がある。さらには水位データと降雨レーダー、降雨情報、および地理情報システムを連携させ、統計モデルを活用して最大で1時間先の水位予測データを出す「管きょ内水位把握システム」の研究も熊本市、日本下水道新技術機構と共同で実施し、製品化に向けた開発を進めている。

下水管の許容量表示
各マンホールの標高や下水管の深さを考慮した管路断面図に水位を表示することで可視化する。

「マンホールアンテナ」は既に数多くの自治体で導入され、住民への避難情報の発令に役立てられている。2015年7月の水防法改正で自治体は浸水想定区域内の地下街についても避難確保等に取り組むことが規定されたが、実際に神奈川県内のある都市では駅周辺に「マンホールアンテナ」を設置し、避難情報を出すタイミングについて検討を始めている。今後は自治体での避難対応はもちろんのこと、老朽化で漏洩を起こしている下水管の発見や、冠水被害を起こしやすい場所の把握など、様々な調査にも活用が広がる可能性がある。また、同社は科学技術振興機構(JST)との産学共創プラットフォームで、都市浸水リスク予測と住民への情報提供に関する仕組みの研究も進めている。

同社では「マンホールアンテナ」を軸とするソリューションにより防災・減災をサポートし、気候変動の時代にも住み続けられるまちづくりを推進するとともに、将来的には災害に強いインフラの基盤整備や、マンホールから下水処理場に入る水量を予測してポンプの運転を効率化することでエネルギー問題にも貢献できると考えている。

マンホールアンテナ取り付け例
マンホールアンテナの取り付け例。公道上使用をふまえた強度、耐久性、耐水性を実現。既存の鉄蓋同様の耐荷重性能を確保している。各種情報は、マンホールアンテナから無線通信により、クラウドサーバ内に収集され、インターネットを通じてリアルタイムにお客様の端末で管理できる。

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