テーマ1
SDGsと住友「地方創生」

 ワンポイント解説
日本政府が全閣僚を構成員に据え設置した「SDGs推進本部」が2018年に決定した「SDGsアクションプラン2019」。ここで日本のSDGsモデルの3本柱を定めていますが、二つ目の柱が「地方創生と循環共生型社会」であり、地方創生ビジネスを国も本気で後押ししていることが分かります。この流れを受け、企業が自治体や大学など地域と包括提携を行う事例も近年一段と増えていますが、ポイントは目的が社会貢献でなく、あくまでもビジネスを加速させることにある点です。
住友グループ各社の地方創生の取り組みも、雇用や観光をはじめとした地方ならではの課題に、自らが保有する技術やネットワークを生かし、地方創生ビジネスを広げていこうとする強い決意が見受けられ、この流れは今後ますます加速していくことでしょう。

日経BPコンサルティング
SDGsデザインセンター長
古塚 浩一

住友金属鉱山

新たな生産拠点を福島に構え、雇用創出により被災地復興を後押し

2011年3月。福島県双葉郡ならまちで、日本化学産業・福島第二工場の竣工式が行われて間もなく、東日本大震災がこの地を襲った。

住友金属鉱山は、増加する二次電池用正極活物質のニッケル酸リチウム需要に対応するため、増産計画を立てていた。ニッケル酸リチウムは、電気自動車に搭載する二次電池のコアを成す重要な部材。愛媛県の磯浦工場で生産していたが、敷地の面で設備増強に限界があると感じていたところだった。そのタイミングで同社は、完成はしたものの空き工場となっていた福島第二工場の話を聞いた。

福島県に誕生した住鉱エナジーマテリアル楢葉工場。
楢葉工場で製造されたニッケル酸リチウム。

生産拠点を複数にすることで、増産対応に加え供給リスクの分散が図れるメリットもある。それは同時に、楢葉町をはじめとする原発事故の影響を受けた福島・浜通り地域の復興にもつながる……。同社は従業員の多くを現地雇用する100%子会社「住鉱エナジーマテリアル」を設立し、福島第二工場を借用した生産拠点の確立へと歩を進めた。楢葉町に進出する住友金属鉱山の思いは、被災地復興と本業の躍進を結びつけるものとして、必然的な経営判断だったといえる。

現地は福島第一原発から近く、避難指示区域に指定されていたが、放射線量が低い同町は2015年9月に避難指示が解除された。同社は以前から避難指示の解除を念頭に、12月の稼働開始を目指して準備に入っていた。ただ、問題は大きかった。原発事故以来、誰も居住していなかった同町には、食料を提供してくれる店も、公共交通機関もない。当初は従業員の昼の弁当を手配するのも一苦労だった。しかし、原子力災害時の対応拠点となるオフサイトセンターや、廃炉作業の研究開発拠点となる「モックアップ施設」など国の施設の進出が決まり、状況が好転。現在、生活インフラ自体は整いつつあるという。最初は何もなく途方に暮れたというが、そんなとき、海外のインフラの整っていない地域で鉱山開発を行ってきたノウハウが生きた。

働く人たちは「環境に寄与する製品づくりを通じてこの町を復興する」という誇りと気概を持ち、取り組んでいる。楢葉工場を継続的に運営することで、地域社会へ貢献したい。みんなが安心して暮らせる一助になりたいという、住友金属鉱山の思いは加速している。

品質はもちろん安全管理も徹底されている。

住友ゴム工業

独自の制震技術で、熊本城の未来を支える

重要文化財建造物13棟など、2016年4月14日、16日の熊本地震で甚大な被害が生じた熊本城。復興のシンボルとして、天守閣の復旧作業が急ピッチで進められている。

日本は地震国だ。その現実を再認識させる巨大地震は頻繁に発生しており、建築物の倒壊をいかに防ぐかがまちの持続性の観点からも重要なテーマとなる。

6年にわたる京都大学生存圏研究所との共同研究によって製品化された住宅制震ユニットMIRAIE。熊本地震のほか、北海道胆振東部地震などでも倒壊0の実績を持つ。

住友ゴム工業は、1995年の阪神・淡路大震災で神戸本社・工場が甚大な被害を受けた。この経験を機に自然災害に強いまちづくりへ貢献したいとの思いが高まり、創業以来タイヤ開発を通じて培ってきたゴム技術を生かして、2012年3月に発売したのが、住宅用制震ユニット「MIRAIE[ミライエ]」だ。

かつての対策は構造を強化して地震の揺れに耐える“耐震”の考え方が主流だった。ところがこの対策では、震度7の巨大地震や繰り返す余震での倒壊を防げる保証がない。一方で1990年代以降、地震の揺れを伝えない“免震”も注目されたが、コストがかかり一般住宅には浸透しなかった。同社は耐震や免震ではなく、地震の揺れを吸収する“制震”の発想に着目。地震の運動エネルギーを熱エネルギーに変換する高減衰ゴムを開発した。このゴムで地震の揺れの95%を吸収するMIRAIEは、累計4万4000棟の住宅に導入され、各地の地震で「半壊・倒壊0」という画期的な実績を上げている。

さらに、MIRAIEの制震技術は東本願寺の御影堂や大谷祖廟といった京都の重要文化財建築などにも採用されている。改修工事の際には東本願寺から「耐用年数200年」を求められたというが、同技術であれば可能だと想定している。

そして今、MIRAIEの制震技術が熊本城天守閣の復旧整備事業を支えている。16年に発生した熊本地震は震度7が複数回観測された初のケースとなったが、震源地近くでMIRAIEを導入していた住宅132棟には1軒も半壊・倒壊事例がなかった。

この技術に熊本城天守閣復旧整備事業を手掛ける大林組が着目。MIRAIEの技術採用を住友ゴム工業に打診し、熊本城のシンボルである天守閣への採用が決まった。

城や社寺などの歴史的建造物では、制震構造が見学者に目立たないようにしなければならない上に、動線の確保も必要となる。こうした制約の下でも、小型で軽量な住友ゴム工業の制振ダンパーなら導入が可能だ。さらに、低コストで長期間メンテナンスも不要。これらの強みが決め手となり、2018年に大天守の最上階、2019年には小天守の最上階にも設置された。これからも地域のシンボルである熊本城の未来を支え続けていく――。

住友ゴム工業は、一度壊れると技術、経済の両面で修復が容易ではない伝統建築の保全に努めるべく、今後も歴史的建造物での導入に力を入れていく方針だ。さらには、東南アジアなど日本と同様に地震が多い国からの依頼も増加しており、国内のみならず世界各地で、災害に対して強靭な建築物の整備と持続的な地域づくりへの貢献を目指していく。

小天守に設置された制震ダンパー。小天守の最上階には4基、大天守の最上階には12基が設置されており、空間の開放感を維持したまま繰り返しの揺れにも制震効果を発揮する。

三井住友カード

キャッシュレスシステムの普及で、地方の持続的発展をサポートする

日本で最も浸透しているキャッシュレス決済手段はクレジットカードだ。経済産業省が出したデータを見ると、キャッシュレス決済全体の実に9割をクレジットカードが占めているが、小規模・個人店舗、とりわけ地方部ではまだ導入していない事業者も多い。政府もキャッシュレス決済を推進する中、三井住友カードは中小事業者がクレジットカードを手軽に導入できるサービスの提供によってキャッシュレス決済の裾野を広げ、地方創生にもつなげる取り組みを進めている。

決済端末としての機能だけでなく、POSレジや従業員管理、それらのデータを活用するための機能など、中小事業者のビジネスサポートを実現する充実のサービスが備えられたSquareのサービス。

同社は2019年3月、アメリカの決済サービス提供会社Squareとの提携関係強化を発表した。そもそも両社は2012年に資本業務提携し、日本でのサービス提供を二人三脚で取り組んでいる。従来、事業者がクレジットカードを導入するにはカード会社への申し込みから審査、決済端末設置、利用開始まで1カ月程度かかるのが一般的。加えて端末は比較的高価で、かつ入金サイクルが長く、導入をためらう中小事業者も多かった。これに対してSquareは、申し込みも審査もすべてWebで完結するため、最短で当日より利用を開始でき、端末が安価で事業者に負担がかからない。入金も最短で翌営業日と、従来の様々な課題を解決する点がポイントだ。導入のハードルが低いことから、同社ではキャッシュレス決済の裾野を広げる切り札になれるポテンシャルがあると考え、Squareとの提携を強化。3月発売の最新端末を無償提供するキャンペーンを実施したり、4月からは全国の三井住友銀行の支店でSquare紹介を開始したりするなど、普及の加速を図っている。

インテリアにこだわりのある書店、美容院やカフェの雰囲気にもなじむ洗練されたデザイン。

Squareのメリットは導入の簡便性だけではない。スマートフォンやタブレット端末のアプリから操作できるため、店舗側に習熟の必要がない点もアドバンテージだ。端末はコンパクトでデザイン性が高く、店舗のインテリアに違和感なくなじむ。また、最新端末はVisa、マスターカードなど主要国際カードブランドの非接触ICカードによる「タッチ決済」に対応しており、今後は国内の電子マネーにも対応予定。カードを端末にかざすだけで簡単に決済できる。また決済以外に売り上げ管理機能を備える点もSquareの特徴だ。

もう1点注目したいのが、インバウンド対策の切り札的ツールとしても期待できることだ。世界では、国際カードブランドの「タッチ決済」が主流になりつつある中、Squareは訪日外国人が自国で慣れ親しんだ支払い方法でそのまま決済できるため、都市部はもちろん地方部でも海外客の旺盛な需要を取り込めるようになる。三井住友カードは地域金融機関などとも連携し、事業者が対面で相談できる体制も整備。Squareによって地方部のインバウンド対応をサポートし、地域の持続的発展に貢献していきたい考えだ。

主要国際ブランドのカード(磁気ストライプ型、接触IC型、非接触IC型)に対応。外国人旅行者を含む日本におけるキャッシュレス決済利用者のニーズに対応することで、都市部だけでなく地方のキャッシュレス推進にも大きく貢献している。

※ 「タッチ決済」とは、国際標準の非接触決済サービス/ISO14443 typeA/B の通信規格のこと

三井住友ファイナンス&リース

付加価値を生むワイナリーに事業投資し、農業を軸としたまちづくりを支援

農業を主産業とする地域の現状は、就農年齢と耕作放棄地数が右肩上がりである一方、就農者そのものの絶対数は右肩下がり。自然や風土、特産品といった強みを生かそうと考えても、地産地消の農業のみでは根本的な活性化は難しい。北海道・積丹半島の付け根に位置する仁木町と余市町も同様の課題を抱えていたが、近年、東京に本拠を置く企業が事業会社を設立し、ワインを軸とした6次産業による地域振興に向け動き出した。この取り組みに事業としての魅力を感じ、地方創生への貢献の一環として共同事業に参画したのが、三井住友ファイナンス&リース(SMFL)である。

「NIKI Hillsワイナリー」では20年後に100軒を超えるワイナリーを集めることで、日本全国、そして世界に向けたワインツーリズムの情報発信を目指している。
圧搾機によるブドウの搾汁の様子。SMFLは本業のリース事業の一環として、同施設の設備も手掛けている。

SMFLはこれまでにも本業の柱であるリース事業で地方創生を支えてきた。今回の特徴は、立ち上がったばかりで金融機関からの資金調達が難しい取り組みについて事業性や地域にもたらす価値を評価し、事業パートナーとして出資の面から参画している点だ。仁木町のワイナリーを中核とする「余市川ワインバレー構想」を掲げたNIKI Hillsヴィレッジ(以下、NHV)の株式の一部を取得し、共同事業を進めていくことで合意した。

NHVはブドウの生産とワイン醸造はもちろん、リンゴなど他の農産物の生産から食品加工、販売まで一貫した6次産業化を目指しており、仁木町の「NIKI Hillsワイナリー」にホテルやレストランを併設、ワインツーリズムも推進するなどトータルな地域活性化を志向している。既にワインは製品として出荷され、国内の高級ホテルや客船で採用されているほか、内外のコンテストで受賞実績を出している。地方創生というと地産地消になりがちだが、NHVはこのように地域外へも積極的にアピールしており、付加価値を生む試みを実施している点も特徴的だ。SMFLはこの思いに共感した上、国産ワインの市場発展という事業の将来性、事業採算を確認・検証する運営体制、さらに地元行政や企業の支援体制などを評価。事業投資による共同事業参画を決断した。

2019年7月には「NIKI Hillsワイナリー」がグランドオープン。既に周辺には約10軒のワイナリーが稼働もしくは計画中で、こうした取り組みが雇用を生んでいるほか、地域の魅力が広がり移住者も増えている。SMFLは、この地域が将来的に日本を代表するワイン産地となり「余市川ワインバレー」という大きなブランドとして成長していくことに期待し、NHVだけでなく周辺の事業者にもリースをはじめとする様々なファイナンスサービスを提供。今後も仁木・余市のワインの魅力を世の中に伝えていくサポートを続けたいと考えている。

左:NHVは「余市川ワインバレー構想」を通じ、雇用創出や新規就農者の育成に注力するとともに地域農業との共生を推進する。右2点:施設は、ワイン醸造、レストラン、宿泊機能を有し、SMFLのリースが各所で提供されている。

※ 農林漁業の6次産業化とは、1次産業としての農林漁業と、2次産業としての製造業、3次産業としての小売業等の事業との総合的かつ一体的な推進を図り、農山漁村の豊かな地域資源を活用した新たな付加価値を生み出す取り組みのこと(農林水産省ホームページより)

PageTop