企業にとって情報は血液であり、その管理は経営の生命線を握る。経理文書、契約書、研究開発データ、顧客情報――。こうした“企業の記憶”が失われる事態になれば、ビジネスの継続は大いに困難になる。地震や大雨といった天災の後にも事業を継続する「BCP(事業継続計画)」の導入が進む中で、その事業継続を支えるのが住友倉庫のアーカイブズ事業だ。
関東平野の北部に位置する埼玉県羽生市。ここに住友倉庫が運営する「羽生第二アーカイブズ」がある。2012年から2020年にかけ3期に分けて建設されたこの施設は、同社のアーカイブズ事業の中で最大規模を誇る中核拠点だ。
倉庫内への立ち入りやアクセスが生体認証システムで厳重に管理された同施設では、多数配置された監視カメラが24時間365日稼働する。情報セキュリティマネジメントシステムに関する国際規格「ISO27001」の認証を取得している他、災害などで停電に直面しても自家発電設備で72時間稼働できる体制を整えている。
建屋が備えている大きな特徴の一つが、免震構造の採用だ。倉庫建屋と地下のコンクリート地盤のあいだに免震ゴムが配置され、大きな地震が来ても揺れを2分の1〜4分の1に軽減できる。国内で免震構造を備えた倉庫は、まだまだ少ないという。
そもそも立地の選定でも、山が少なく、活断層が発見されていない羽生市に白羽の矢を立てた。周辺自治体が震度5を記録した地震でも、羽生市内は1段階低い震度4前後にとどまる。東京の都心からは約60キロ、東北自動車道を使えば1時間強でアクセスできる立地は、津波のリスクを回避しながら、日常のデリバリー業務に支障をきたさない絶妙な位置関係にあるといえる。
倉庫内には4つの保管環境がある。全体の8割から9割を占める「常温庫」は倉庫内に空調設備はないが、冬でも10℃程度、夏でも30℃程度に保たれる環境だという。
一方で「事務所並み空調」という区画もある。ここは主に製薬業界向けに設けられた。医薬品の研究開発に関わる書類は、人の命に直結する情報であり、厚生労働省のガイドラインも厳格だからだ。庫内の温度は26℃以下で管理され、一部には窒素ガス消火設備も導入されている。
さらに「定温定湿」「冷蔵」の環境にした区分も設けている。磁気テープや映像フィルムを保管するための区画だ。特にアナログの古いフィルムは、経年により「酢酸化」と呼ばれる劣化現象を起こすため、それを低温で防ぐのが狙いだ。ここには1970〜1980年代の映像作品や、戦前の新聞紙などが静かに眠っている。
羽生第二アーカイブズの真骨頂は「GxP」に対応した点にある。GxPとは、医薬品の製造販売・品質管理の総称だ。その核となるのが「SOP」と呼ばれる標準操作手順書である。SOPは一度策定して終わりではなく、年間の業務を振り返りながら関係者間で協議・意見交換を行い、年1回の定期的な見直しを実施している。現場で培われた知見や実務経験を反映させながら継続的にアップデートを重ねることで、常に実効性の高い運用体制が担保される。
保管する資料は厚生労働省令で保存を義務付けられた、医薬品の研究開発・製造販売の過程で発生する記録類となり、製薬会社は保管施設に対して厳格な管理を求めてくる。このレベルの体制を整えられる倉庫会社は、国内でも極めて少ない。
倉庫業としては厳しい事業環境が続いている。デジタル化の波が怒涛のように押し寄せているためだ。かつてはオフィスで発生した紙の書類や磁気テープの保管需要が旺盛であったが、今は情報がデジタルで生まれ、クラウドに保存される。預かっている書類の多くは保管の年限が決まっており、新たに入ってくる量より、出ていく量の方が多くなる日は近い。
だが住友倉庫は、この逆風を機会として活用しようともしている。その一例が「文書電子化サービス」などの拡充だ。保管書類を倉庫内で電子化し、原本を外に持ち出さないことで、紛失リスクを最小化できる。
もう一つは、磁気テープによるバックアップ需要の見直しだ。BCPの対策としてデータのバックアップは、「3つのコピーを用意し、2種類の媒体で記録し、1つはオフサイト保管する」という「3-2-1ルール」が長く推奨されてきた。最近は、サイバー攻撃などから情報を守るため、さらにコピーの一つをオフラインで保管する「3-2-1-1ルール」が提唱されている。“企業の記憶”を保管するリスクが多様化する中、住友倉庫は「磁気テープ保管サービス」で最後の「1」を守る要となり、倉庫業としての視点から安全対策を推奨しているという。
今後の新たな展開として、住友倉庫は「書類保管システム」における年限管理などのノウハウを活用した、新規の保管需要の開拓を進めている。文書管理と防災備蓄品の管理は、多くの企業で総務部門が担当しているが、書類だけでなく、感染症対策や災害対策の備品も一括して預かれば、企業の負担は大きく軽減される。さらに、免震構造や窒素ガス消火設備、温度管理が可能な区画を活用し、美術品などの高付加価値品に対する保管需要開拓にも積極的に取り組んでいく方針だ。
デジタル化という時代の奔流が激しくなる中で、住友倉庫はアーカイブズ事業で得たノウハウを武器に“新たな道筋”を描いて確実に成長を遂げようとしている。