住友が取り組む社会課題 ~未来への羅針盤~
環境負荷を軽減し耐災害性を高めた倉庫施設を通じ、顧客のサプライチェーン維持に貢献する
近年、自然災害による被害が甚大化している。気象災害を例にとるならば、豪雨による河川氾濫や土砂災害、台風に伴う暴風や高潮などがあり、人々の暮らしが脅かされ、経済にも深刻な影響が及んでいる。この背景にあると考えられるのが地球温暖化による気候変動である。このため、気候変動を引き起こしている原因の一つである温室効果ガスの排出を抑制するべく、国際社会では様々な対策が進められている。産業界においても、気候変動がもたらすリスクを低減・回避する取り組みが求められている。
住友倉庫では、2006年に環境方針を制定する以前から、トラック輸送からより環境負荷が低いとされる鉄道や船舶による輸送へ切り替えるモーダルシフトなど環境負荷低減の取り組みを継続してきた。一方で、近年は気候変動の影響と考えられる自然災害の激甚化により顧客のサプライチェーンが寸断される事態を防ぐべく、倉庫施設の災害への耐性をいっそう高める施策にも取り組んでいる。
そうした同社の姿勢が象徴的に表れている施設が、2021年1月に神戸・ポートアイランドに竣工した同社の新倉庫だ。同倉庫は国外と国内の結節点である港湾エリアに位置している。海上輸送の効率化のため海運各社は船舶の大型化を進めており、一回の寄港で取り扱われる貨物量が増えていることを背景として、同エリアにおいて大量の貨物が扱える物流施設のニーズはこれまで以上に高まっている。
自然災害に起因する被災リスクを低減し、顧客の資産である貨物を守りサプライチェーンを維持する。神戸の新倉庫は、同社のこうした考えを表す施設となっている。
同社が自然災害への対策をさらに強化するきっかけとなったことの一つは、阪神・淡路大震災を経験したことである。この震災が起きた翌年の1996年には、同社は営業倉庫としては国内で初めて免震構造を取り入れた倉庫を建設するなど、災害への備えを念頭に投資を行ってきた。新倉庫の建設にあたっては、従来工法と比較して、より耐震性と耐久性に優れるPCaPC(プレキャスト・プレストレストコンクリート)工法を採用している。また、台風到来時の暴風雨や高潮への対策にいっそうの重点を置くこととなった。
倉庫において暴風雨の被害を受ける場合は、主に雨風の吹き込む開口部からであることが多い。開口部が多ければ、それだけ暴風への耐性が低下してしまうため、同倉庫ではその数を最小限に絞る設計とした。そして、開口部に設置するシャッターは、通常の仕様よりも強風に強いシャッターを採用している。
また、高潮への対策としては、倉庫1階部分は荷捌・保管エリアの床面が高くなっているほか、グラウンドレベルの出入り口には防潮板を設置している。さらに、災害時には外部からの電源供給が途絶えることが想定されるが、停電発生後は非常用自家発電設備に自動的に切り替わり、外部電源喪失後も72時間は施設内で必要最小限の荷役作業が可能になっている。万一の浸水被害を避けるため、非常用自家発電設備は倉庫の2階部分に設置した。
気候変動対策のもう一つの観点としてGHG排出量の削減が求められているが、同倉庫をはじめ同社で建設する倉庫は、建物などの環境配慮に関する評価認証制度「建築環境総合性能評価システム(CASBEE)」Aランクを取得している。同倉庫はCO2排出量削減を主眼とした設計がなされている。倉庫内に設置された庫内の温度を一定に保つ空調設備や、荷役に使われるフォークリフトなどの動力源は、その9割以上が電力であるため、これらの消費電力量を減らせば、CO2排出量削減につながる。同倉庫では、省エネ性能の高い機器を選定するほか、日射量が相対的に少なくなる建物北側を中心に空調機能を有する区画を配置するなど、消費電力を抑制する工夫をしている。
また、荷役効率を高めることによっても、CO2排出量削減を図っている。倉庫1階部分は、中央を貫通する形で車両通路が設けられているほか、フォークリフトの移動距離が短くなるように貨物の積み下ろし場所と貨物用エレベーターなどを配置している。屋内に荷捌場や車両通路を設置したことで雨風の影響で作業効率が低下することがなくなり、トラックの待機時間が短縮されている。温度管理を必要とする貨物を運ぶトラックは、待機中にエンジンを停止できないことが多いため、待機時間の短縮はCO2排出量の削減にもつながるのだ。加えて、トラックバース予約システムを導入し、トラックの到着時間の分散に取り組んでいる。
住友倉庫では、こうしたハード面での取り組みのほかにもモーダルシフトなど、ロジスティクスの仕組みを工夫することに力を入れている。輸出に使用する空コンテナの移動では、トラックでコンテナ1本ずつを運ぶだけではなく艀(はしけ)を利用した海上輸送も活用している。また、輸入貨物を取りだした後、コンテナをそのまま輸出用に利用するコンテナラウンドユースを顧客へ提案するなど、輸送の際に排出されるCO2の削減にも取り組んでいる。
今後も同社は、倉庫での保管から輸送にかけての各工程における作業効率性の追求や、再生可能エネルギーの活用などにより、環境負荷削減に努めながら、自然災害に強い物流施設を建設・維持することにより、持続可能な社会の実現に貢献していく考えだ。