住友と共創 ~ビジョンを描く~

住友大阪セメント

多大なCO2排出量を逆手に取り、CO2再資源化人工石灰石を生み出した新カーボンビジネス

コンクリートの原料であるセメントは、主原料の石灰石を高温で焼成して製造する。焼成工程では、熱エネルギーに由来する二酸化炭素(CO2)排出の他に、石灰石を高温で分解して反応させるときに分離されたCO2が放出されるという製法から、CO2排出量の多い産業分野とされていた。

だが住友大阪セメントは、製造時に排出されるCO2と、廃棄物に含まれるカルシウムを人工的に結合させて炭酸カルシウムに再生する技術を開発。天然の石灰石と比べても遜色のない炭酸カルシウムを生み出す技術を確立した。それは、CO2を鉱物の中に組み込んで永久に固定できる技術でもある。CO2の排出源となってきたセメント会社自身が、CO2を「資源」に変えるという発想は、同社を「環境解決企業」へと変貌させようとしている。

廃棄物に含まれるカルシウムと二酸化炭素を結合させる「CaとCO2のデュアル・リサイクル技術」

あえて「回り道」を選び多用途化を目指す

住友大阪セメントが「CO2を再び鉱物に変える」手法として選んだのは、まず廃棄物からカルシウム分を抽出し、それをCO2と反応させる「間接炭酸塩化法」だ。CO2を鉱物に“組み込む”には、材料とCO2を直接反応させる直接法もあるが、住友大阪セメントは工程が複雑になり、コストが上がるにもかかわらず、あえてこの手法を選んだ。

というのも、この間接法には大きな利点があるからだ。天然の石灰石よりも不純物が少なくなり、粒径が均一にそろった高品質な炭酸カルシウムを形成しやすいというアドバンテージが得られるのだ。

天然石灰石(左)に比べ、CO2再資源化⼈⼯⽯灰⽯(右)は粒径がそろうのが特徴

2020年ごろから基礎的な実験を始め、実現可能性を確認した上でNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金事業のプロジェクトとして応募し、2022年に採択された。

中核となるのは「バイポーラ膜電気透析」(BMED)と呼ばれる技術だ。塩水を電気分解して酸とアルカリを生成し、カルシウム抽出とCO2反応のそれぞれの工程で循環利用する。外部から酸やアルカリを購入する必要がなく、基本的にプロセス内で物質循環が閉じている点が特徴だ。必要なエネルギーにはグリーン電力を活用する想定で、化石燃料に依存しない製造体制を目指している。

2023年から2025年にかけて、大阪府と栃木県にベンチ~パイロットスケールプラントを構築。量産試験レベルのサンプルを各方面に提供できる段階にまで到達した。2025年度は基金事業の折り返し地点にあたり、基本技術の確立とコスト・CO2削減効果の検証が進む。

こうして手間をかけて間接炭酸塩化法という「あえて回り道を選んだ」技術的判断が、のちに思いがけない様々な用途への展開を呼び込むことになる。

塗料、紙、樹脂、ゴム……「混ぜるだけ」で脱炭素に

この間接法プロセスから製造された「CO2再資源化人工石灰石」は、1kg当たり約420gのCO2を固定できるという。鉱物に組み込まれたCO2は大気中に再び放出されることはないため、製品が摩耗したり自然損耗したりした後も半永久的に固定され続ける。

このため、既存の製造ラインに「CO2再資源化人工石灰石を混ぜるだけ」で高度かつ高効率なCCU(CO2の回収・有効利用)が実現できる。利用する側は大がかりな設備投資を必要としない上、工業用の沈降性炭酸カルシウムに匹敵する高い品質を備えていることが分かった。炭酸カルシウムを使う業界は、その手軽さとCO2固定型の利点に着目。「こういう用途で使えないか」という引き合いが急増した。

2025年に入ると具体的な成果が次々と形になっていった。道路舗装用塗料大手のキクテック(名古屋市)と同年1月、CO2再資源化人工石灰石を使った路面標示用塗料を世界で初めて開発したと発表。同年に開催された「大阪・関西万博」会場へのアクセスルートで実証試験を実施した。

路面標示用塗料を施工する様子

同じく2025年1月、製紙メーカーの王子エフテックス(東京都中央区)や富国紙業(同新宿区)と低炭素紙「ロカボ紙」の開発を発表。2月には日泉ポリテック(愛媛県大洲市)と複合化ポリプロピレン樹脂を、5月にはDUNLOP(住友ゴム)(神戸市)とOA機器用ゴムローラーを開発したと発表した。

わずか5カ月の間に4つの「世界初」が立て続けに発表されたことになる。特に象徴的な事例が、キクテックと開発した路面塗料だ。道路の停止線や横断歩道などに使われる路面標示用塗料は、これまで消去する際に再利用できず廃材が発生していた。従来は全量を焼却・埋め立て処分していたという。

住友大阪セメントとキクテックは、この廃材塗料をもCO2再資源化人工石灰石の原料とするために回収し、製造したCO2再資源化人工石灰石を再び塗料に戻す形で、新たなサーキュラーエコノミーシステムを構築。CO2の固定、廃棄物の削減、そして埋め立て処分場の延命という3つの効果を同時に達成する循環型モデルが完成した。

大阪・関西万博で多くの来場者を集めた「住友館」でも、周囲のコンクリートブロックに約500kgのCO2再資源化人工石灰石を使い、約210kgのCO2を固定できた。グッズ販売コーナーで来場者が手に取るクリアファイルやメモパッドなどもCO2再資源化人工石灰石を使ってつくったという。

大阪・関西万博「住友館」での境界ブロック(左)、記念グッズのクリアファイル(中)、メモパッド(右)

ゴム分野でも、DUNLOP(住友ゴム)が生産するOA機器用ゴムローラーの全量にCO2再資源化人工石灰石を活用した場合、年間約36トンのCO2削減が見込まれるという。将来的には自動車タイヤ用ゴムへの適用も視野に入れ、セメント産業とゴム産業の「産業間連携」による脱炭素の可能性が広がっている。

大阪・関西万博「住友館」に展示されたOA機器用ゴムローラー

陸から海へ、「藻場王」が拓くブルーカーボン生態系創出事業

住友大阪セメントには、もう1つの環境解決技術がある。2002年から積み重ねてきた「藻場増殖礁」だ。これは、「磯焼け」が進み、海藻が著しく減少した沿岸域にコンクリート製の人工藻場礁を沈めて、海藻が繁茂する海の再生を促すシステムだ。これまで四半世紀にわたって長崎県の離島を含む全域で実績を積み上げてきた。

だが、従来の藻場増殖礁は、普通コンクリートによるCO2排出や、プラスチック部材使用によるマイクロプラスチック発生懸念がより豊かな海の実現に向けた課題として残っていた。

そこで威力を発揮したのが、CO2再資源化人工石灰石だ。これを配合した低炭素型コンクリートはCO2排出量を大幅に削減できる。プラスチック部材も海洋生分解性素材に切り替え、2024年に次世代型の藻場増殖礁「藻場王」として発表した。

「藻場王」は4000基以上の沈設実績を持つ従来製品をベースに開発(左)。沈設後、台座にも海藻が生え、藻場が広がっていく(右)

「陸の脱炭素」で培ったCO2再資源化人工石灰石の技術を「海の脱炭素」に持ち込むことで、セメント会社にしかつくれない「ブルーカーボン(※)生態系創出事業」が誕生した。

※ 海藻をはじめとした海洋生物が吸収・固定するCO2由来の炭素のこと。2010年代から国際的に注目を集める

2025年2月に閣議決定された政府の地球温暖化対策計画における「2040年度にブルーカーボンによるCO2吸収量を200万トンとする」という目標も、同社にとっては追い風となるだろう。海域や対象海藻種の拡大を進め、長崎から全国へ、さらには海外への展開も視野に入れている。

セメントの先にある「環境解決企業」の未来

住友大阪セメントは中長期ビジョン「SOC Vision2035」で、2035年にセメント事業と非セメント事業の売上高比率を「50対50」にするポートフォリオ変革を掲げている。2023年から2035年にかけてはカーボンビジネス新規事業投資を含む総額約5000億円の投資を計画。セメント・コンクリート研究所(千葉県船橋市)には「カーボンリサイクル技術研究グループ」を新設するなど体制を強化している。

CO2再資源化人工石灰石と藻場王。陸と海、2つの脱炭素技術は、セメント会社としての知見と資産を環境課題の解決に転用する試みであり、同社が掲げる「環境解決企業」というビジョンの具体的な中身に他ならない。

 ジャーナリスト三河主門が住友のDNAを探る
「住友の事業は住友自身を利するとともに、国家を利し、かつ社会を利するものでなければならない」──。住友の事業精神である「自利利他 公私一如(じりりた こうしいちにょ)」を、CO2を構造的に排出せざるを得ないセメント事業でどう体現するか。その答えの1つが、排出するCO2を資源に変え、廃棄物を原料として活用する住友大阪セメントの「デュアル・リサイクル」の発想だ。「藻場王」は、CO2再資源化人工石灰石を用いることで、利益が上がる仕組みを描きながら環境負荷を最小化し、地域の漁業協同組合や自治体との長期的な信頼関係を大切にする。
藻場を人工的に増殖させる藻場増殖礁の開発・実証を約25年もの歳月をかけて積み上げてきた粘り強さにも、短期的な結果に走らない住友の精神が息づいている。社会から必要とされる技術を、品質にこだわりながら慎重に、しかし着実に社会へ届けていく──その姿勢こそが、住友大阪セメントが目指す「環境解決企業」の原動力であるに違いない。
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