世界で建設分野におけるCO2排出量は全産業の約4割を占めており、脱炭素化が急務となっている。これまで、建築物のCO2排出量削減は、建設後に冷暖房などの運用段階で生じる“オペレーショナルカーボン(Operational Carbon)”を中心とした省エネルギー対策が先行していた。現在、資材の調達、製造から建設、解体・廃棄に至るまでのライフサイクル全体で排出される“エンボディドカーボン(Embodied Carbon)”の削減が注目されている。
こうした状況の中、建築物の資材調達・建設から解体・廃棄するまでに発生するCO2などの温室効果ガス(GHG)を見える化する「One Click LCA」に注目が集まっている。これは、住友林業が日本の販売代理店を務める建物のライフサイクルアセスメント(LCA)算定ソフトウエアである。
UNEP(国連環境計画)が2023年に発行した報告書「Building Materials and the Climate: Constructing a New Future」によると、2050年にはエンボディドカーボンが建設部門における排出量全体の約49%を占めると予測されており、その削減の重要性が近年急速に高まっている。
この国際的な潮流を受け、日本国内でもエンボディドカーボンの制度化に向けた議論が本格化している。国土交通省は2022年12月に「ゼロカーボンビル推進会議」を設置し、2028年の規制開始を目指して準備が進められている。一次案では、延床面積5000㎡以上のオフィスビルなどを対象に、デベロッパーが着工前に算定結果を公的機関へ提出することが義務付けられる見通しだ。東京都でも、2025年4月施行分より、延床面積2000㎡以上の建物を対象とする「建築物環境計画書制度」において、「建設時CO2排出量の把握・削減」が加点項目として追加されるなど、地方自治体でも動きが顕在化している。
住友林業はこの推進会議やワーキンググループに参画し、算定条件の標準化議論に関わり、この課題に積極的に取り組んできた。こうした動きの中で、同社はフィンランドのOne Click LCA社と2022年に日本単独代理店契約を締結し、同年8月から「One Click LCA」の日本語版の提供を開始した。
One Click LCAは、建築物に使用される資材の数量と資材の環境負荷データをもとにCO2排出量を算出し、見える化を実現する。
One Click LCAには3つの特徴があり、1点目が精緻な算定を実現できる幅広いデータベースを構築した点だ。CO2排出量を算定する際、電力使用量、輸送距離、廃棄物量、材料使用料など、いわゆる“活動量”ごとに決められた係数を使って計算する。その係数は一般的に「排出原単位」と呼ばれている。
建築資材に関しては、国が整備する方式では数百件の排出原単位が定義されている。一方、One Click LCAでは、より詳細に定義し約15万件のデータベースを構築した。例えば、木材でも製材や集成材、LVL(単板積層材)など製品の種類が多岐にわたるため、それらを考慮して詳細に排出原単位を定めている。そのため設計段階で、より精緻な算定結果を得られるというわけだ。さらに、EPD (Environment Product Declaration) という枠組みで第三者が検証した環境負荷データを取り込むことで、算定結果の信頼性を担保できる。
2点目は国際規格ISOに準拠している点だ。One Click LCAはISOに準拠しているため、グローバルな評価基準に適合した信頼性の高いレポートを作成できる。
3点目は、建築物を設計・管理するための手法として一般的なBIM(Building Information Modeling)と連携できることにより、業務効率化を図れる点だ。BIMの設計データから資材数量などのデータを取り込むことで入力負荷を大幅に削減できる。そのため、設計段階での反復シミュレーションを高速化できる。着工前の設計段階で資材の変更や構造の比較検討を行い、CO2削減の最適解を見つけやすくなる。
One Click LCAは、ゼネコンや設計事務所、地方自治体、学術機関などを中心に採用が広がり様々な効果を生んでいる。例えば、大林組の次世代型研修施設に建設された木造の実験棟「Port Plus」では、鉄骨造(S造)や鉄筋コンクリート造(RC造)といった他の構造のCO2排出量をOne Click LCAを使って算定し比較した。その結果、木造を選択することで、他の構造に比べてエンボディドカーボンの排出量を大幅に削減できるという木材の環境負荷低減効果を定量的に証明した。
野村不動産が手掛ける新橋駅西口の市街地再開発事業で、環境に配慮して建設した木造の「新橋ぷらっとホーム」もOne Click LCAを活用して設計した事例である。持続する未来型の街づくり拠点として計画され、建設時のCO2排出量削減のためのアイデアを活用して建築した。将来、解体後には使用した木材の一部を再利用し、CO2排出低減にさらに努める想定となっている。
建築資材に関しては、国が整備する方式では数百件の排出原単位が定義されている。一方、One Click LCAでは、より詳細に定義し約15万件のデータベースを構築した。例えば、木材でも製材や集成材、LVL(単板積層材)など製品の種類が多岐にわたるため、それらを考慮して詳細に排出原単位を定めている。そのため設計段階で、より精緻な算定結果を得られるというわけだ。さらに、EPD (Environment Product Declaration) という枠組みで第三者が検証した環境負荷データを取り込むことで、算定結果の信頼性を担保できる。
住友林業が手掛けた福井県坂井市三国湊エリアの町屋ホテル「オーベルジュほまち 三國湊」の改修事例では、既存建物の改修における排出抑制効果の立証にも活用されている。町屋ホテルの1棟を対象にOne Click LCAによるシミュレーション結果を踏まえ、全面建て替えではなく既存躯体の一部を再利用する方針を採用。その結果、建て替えと比較して建設時のCO2排出量を約15%削減可能であることを定量的に示した。
これらの事例が示す通り、One Click LCAは、素材の選択、設計の改善といった企業努力を定量的に可視化し、環境への配慮が評価される市場の形成を促進する基盤となっている。
住友林業グループは、長期ビジョン「Mission TREEING 2030」の中で「ウッドサイクル」を掲げ、森林経営から木材の製造・流通、木造建築、バイオマス発電まで「木」を軸に事業活動を展開している。森林のCO2吸収量を増やし、木材製品や木造建築で長期間にわたり炭素を固定することで脱炭素社会に貢献する狙いだ。
このウッドサイクルを中心とした木材の活用を含めて、One Click LCAの普及を促進することで「業界全体の脱炭素」を推進し、持続可能な社会に貢献していく。