住友と共創 ~ビジョンを描く~

三井住友海上火災保険

防災を支援、「万が一」に備えて保険を超えた安心を

これまで保険会社の主力事業といえば、偶然の事故や災害によって発生した損害を金銭的に補償する保険商品だった。しかし三井住友海上は「保険本来の機能に加えて、事故発生(補償)前の予防、事故発生(補償)後の早期復旧やリカバリーを考えるべきではないか」と発想を転換した。補償前後のソリューションを提供すべく独自に調査と企画を重ね、2023年4月から法人や個人、自治体向けにソリューションを提供してきた。

顧客の声に応え防災グッズをパッケージ化

政府も“万が一”に備えて防災グッズや被災時用の食料を備蓄するように呼びかけている。しかし三井住友海上が初期調査で行った個人向けアンケートでは、半数以上の方が防災グッズを「準備していない」と回答している。一方、準備していない方の7割以上が防災セットの購入に関心を示していた。調査にあたった三井住友海上の担当者は「購入する機会がない、管理が面倒、何を用意していいか分からない、という声が多かった」と話す。

そこで同社は、いくつかのパターンを想定した防災グッズパッケージを佐川アドバンス(東京都江東区)と組んで企画・開発した。個人向けには、自宅で被災した場合に3日間をしのげる「非常食3日分パッケージ」。法人向けには、車で移動している従業員のための「車載用備蓄品セット」や、職場で被災した従業員が帰宅する際に必要になるであろう防災ラジオやポンチョ、食品などをまとめた「帰宅用防災セット」などだ。

目的に合わせた内容がまとめられた防災グッズを開発

こうした複数パターンのパッケージを用意したのは「個人と法人では必要とされる内容が違う」(担当者)からだ。法人向けでは、数量がある程度まとまれば、簡易ヘルメットの同梱といったカスタマイズにも対応する。
さらに「備蓄してある非常食の管理がたいへん」という声を受けて、賞味期限が切れるタイミングを通知するサービスを付帯して提供している。

自治体向けリスクソリューション「防災ダッシュボード」開発

三井住友海上は2022年度の中期経営計画から、事故や災害発生前の「予防」や、発生後の「リカバリー(復旧)」を支援するリスクソリューションの提供に力を入れている。防災関連で、より広い観点から支援するサービスとして力を入れているのが、自治体向けの「防災ダッシュボード」と呼ばれる気象・災害データとAI(人工知能)による防災減災支援システムだ。

防災ダッシュボードでは、大雨による洪水の事前予測、発災後の被害棟数推定データの閲覧などが可能

自治体は、重大な被害をもたらしそうな天候や気象条件の悪化を、多数の情報を基に判断する。たとえば、気象庁や気象情報サービス会社などによる雨量・風速をはじめとする情報や、国土交通省関連から出る道路や河川の状況に関する情報だ。状況を的確に把握し、地域のハザードマップで示されるような被災しやすい地域には、住民の生命を守るための避難指示などを遅れることなく出さなければならないからだ。

被災や被害が甚大ならば、住民の日常生活を早期に回復させ、復旧を急ぐための計画を策定しなければならない。こうした発災後に迅速に現地の情報を収集し分析するニーズは、東日本大震災以降は特に高まっている。「必要な情報を一元化して、リスク状況を可視化するBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを提供できれば、防災・復旧の大きな支援になると考えた」と、防災ダッシュボード事業の担当者は解説する。

そこで三井住友海上は2022年度に防災ダッシュボードの試作版を開発し、全国100超の自治体に無償提供し使い勝手を試してもらった。しかし、単に気象データや河川・道路の情報を一元化しただけでは、自治体が抱える防災対応に対する懸念を解消しきることはできないと感じた。

利用シーンで求められる情報を精査していくと、「今後起こりうる災害に関するリスクを『予測できればありがたい』とのニーズがあった。それらをデジタル技術で解析して情報提供できる最新ツールにしようと、ブラッシュアップを図ってきた」(担当者)。

2023年末に「気象業務法」が改正・緩和され、民間事業者でも土砂崩れ・高潮・波浪・洪水などについて高度な予測が可能になったことも追い風となった。法改正の動きを見据えて、2022年以前から三井住友海上は複数の共同プロジェクトを進めてきた。洪水予測に関しては東京大学や宇宙航空研究開発機構(JAXA)と、土砂災害の予測に関しては横浜国立大学やウェザーマップ(東京都港区)と、さらに内水氾濫(地下の下水道管や水路からあふれる浸水)の予測に関してはハイドロ総合技術研究所(大阪府大阪市北区)と共同研究を行い、自治体における最新の予測情報の利活用について検討してきた。

自然災害の激甚化が進む中、自治体も住民の命を守る警報や避難指示を速やかに出さねばならないケースが増えているという。防災ダッシュボードは最新の技術に基づく予測データの提供などにより、従来、経験豊かなベテラン職員の知見に頼っていた緊急対応の意思決定を支援することを目指す。すでに愛媛県が「都市リスクの可視化事業」の一環として、三井住友海上の防災ダッシュボードを導入するなど、実績も出始めている。

防災と災害対応の強化は、今後も災害大国である日本には欠かせない。それを支援できるプラットフォーマーを目指す積み重ねを加速させている。

 ジャーナリスト三河主門が住友のDNAを探る
2001年10月、住友海上火災保険と三井海上火災保険が経営統合して誕生した三井住友海上火災保険。その歴史をさらに遡ると、1893年(明治26年)に関西の銅事業者や貿易関係者らが出資して設立した「大阪保険株式会社」が基点となる。
一方、1917年(大正6年)に山下汽船の創業者である山下亀三郎が中心となり、第一銀行頭取の渋沢栄一、古河財閥の古河虎之助、住友の住友吉左衛門らを発起人として東京で「扶桑海上保険株式会社」が設立された。その後、いくつかの小さな保険会社を吸収してきた両社が1944年(昭和19年)に合併して「大阪住友海上火災保険」となったのが、住友系保険会社としての源流だ。
三井住友海上は現在、MS&ADホールディングス(HD)傘下の中核会社としてリスクソリューションプラットフォーマーの地位確立を推進する主体となっている。同HDが推進するESG(環境・社会・ガバナンス)経営の中で、防災の観点で社会の安全・安心をサステナブル(持続可能)化しようと、サービス開発や共通価値の創造(CSV)をリードする。
通底しているのは、住友の事業精神である「信用を重んじ、確実を旨とする」のアップデート化への意欲だ。「保険」の範疇を超えて安全・安心を提供しようとの取り組みには、社会全体に「信用・確実」の基盤を造ろうとの本質的な意欲があるように思えた。
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