住友と共創 ~ビジョンを描く~
住友電装
自動車の「血管・神経」とも評されるワイヤーハーネス(複数の電線を束ねた配線部品の集合体)。複雑な構造であるため、この製造は従来、膨大な手作業を必要とする労働集約型産業と評されてきた。そのため、多くの企業が安価な労働力を追い求めて海外へ拠点を移す「最適地生産」をグローバルに展開してきた。
住友電工グループの自動車事業の中核を担い、世界トップクラスのシェアを誇る住友電装(SWS)もまた、世界30カ国以上に100を超える拠点を構え、約25万人の従業員を擁する巨大なグローバルサプライチェーン網を構築してきた。
しかし、近年の地政学リスクや物流コストの急騰、さらには新興国における人件費の上昇は、従来の遠隔地からの供給モデルの脆弱性を浮き彫りにした。こうした混迷の時代において、同社は単に安価な労働力のみに依存する体制からの脱却を模索。市場のすぐそばで製品をつくり、タイムリーに届ける「地産地消」への転換を進めている。
この大変革を技術面から強力に牽引するイノベーションが、長年研究を重ねて2025年末から市場へ投入を開始した「e-STEALTH W/H®(イー・ステルス・ワイヤーハーネス)」である。
従来のワイヤーハーネスは、数百本の電線が複雑に入り乱れる「電線の束」である。製造工程の自動化を進めてきたものの、特に組立作業を自動化することは極めて困難とされてきた。「e-STEALTH W/H®」はこの常識を根本から覆した製品である。最大の特徴は、車両全体に張り巡らされた複雑な配線を「幹線」と「枝線」に完全に分離してユニット化した点にある。
しかも、1本の太い「幹線」を独自の技術によってフラット(平坦)に並行して配する構造を実現した。このフラット化により、従来の丸い形状のハーネスに比べて劇的な省スペース化と軽量化を達成した。
この技術革新は、自動車メーカーに多大なメリットをもたらしている。実際の車両採用例では、インパネ(インストルメントパネル)の内部スペースを極限まで効率化することに成功し、インパネ全体の高さを約40mm下げることに貢献した。これにより、運転席からの視野が広がり、意匠デザインの自由度や居住性が大幅に向上するという効果を生み出している。
経営や物流の観点からも効果は大きい。かさばる完成品の状態で運ぶのではなく、フラットに梱包した状態で幹線を運び、消費地の近くで最終組み立てを行うことで、輸送費や在庫スペースを大幅に削減できるという効果を生み出している。
住友電装にとってe-STEALTH W/H®は単なる新製品ではなく、ものづくりのあり方そのものを変革するための重要なツールと位置づけられている。同社が目指すのは、製造現場において人の負荷を軽減し、人がより高度な判断や価値創造に注力すること、そして誰もが世界中のどこでも同じ品質で効率的に生産できる“スマートファクトリー”の実現である。
鍵を握るのが、最先端のデジタル技術と現場力の融合である。例えば、作業者の動きをデジタルデータ化する「AI(人工知能)による骨格認証」技術が活用されている。これまでベテラン作業者が感覚的に行っていた定性的な手順や細かなコツを、骨格認証によってピンポイントで可視化し、科学的な「形式知」へと変換する。これにより、世界各地の多様な作業者に対して最適化された習熟訓練が可能となり、スピードと品質のばらつきを早期に解消する基盤を整えた。
さらに一歩進んだ取り組みとして、工場において熟練のリーダーにARグラス(拡張現実ゴーグル)を装着してもらい、彼らが現場のどこを見て、何を考え、どう判断しているかをデータとして収集・分析する試みも始まっている。こうして得られた現場の知見を「マルチAIエージェント(複数のAIがチームを組み、それぞれのAIが役割を分担しながら自律的に業務を遂行する仕組み)」に学習させる。
また、人が担っていた作業はフィジカルAI(カメラやセンサーで現実世界を認識しロボットなどの物理的な体を動かして作業を行うAI)を活用する。従来の産業用ロボットは、あらかじめプログラミングされた定位置での作業しかできなかったため、形状が柔軟に変化するワイヤーハーネスの製造には対応できなかった。しかし、独自の判断力を持つフィジカルAIを導入することで、人間とロボットが高度に共存する生産ラインの構築が可能だ。
しかも、AIがトラブルの予兆を事前に察知して指示を出し、複数の異常が同時に発生した際にも全体最適の観点から優先順位を自ら判断する。これにより、停止リスクを限りなく低減した工場運営が実現しつつある。
自働化率を極限まで高めるスマートファクトリーの推進は、日本の製造業における長年の課題であった人件費の壁を打ち破る可能性を秘めている。同社が描く明快な未来図、それはものづくりにおける「国内回帰」と「地産地消」の実現である。
製造コストのグローバルな平準化を達成できれば、海外の安価な労働力に依存し続ける必要はなくなる。日本国内に再び確固たる量産体制を構築することは、地政学リスクに対するサプライチェーンの強靭化(レジリエンス)をもたらすだけでなく、日本を再び「世界の量産マザー工場」として復権させ、ひいては国力の回復や日本のものづくりの矜持を取り戻すことへとつながっていく。さらに日本以外では、消費地の工場で製造を行うという「地産地消」の考え方も取り入れる。
同社が培ってきた技術は、将来的に自動車の枠を超え、空飛ぶクルマや宇宙ロケット、さらには今後世界的に爆発的普及が見込まれる介護・サービス分野のロボットへの応用など、広大な可能性を秘めている。
こうした野心的な事業の根幹には、日々の行動原則として定められた「SWS WAY」が存在する。これは、住友電装だけでなく、住友電気工業の自動車事業本部、そして共同出資するオートネットワーク技術研究所の「三位一体」で共有する基本理念である。この理念を礎にして、“モビリティ社会のなくてはならないパートナー”として同社は進化し続けている。
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