住友と共創 ~ビジョンを描く~

日本総合研究所

教育と購買の一気通貫モデルで、生活者の脱炭素行動の変容を促進

皆さんは、「エコラベル」や「カーボンフットプリント(CFP)」という言葉をご存じだろうか。エコラベルとは、商品やサービスがどのように環境負荷低減に資するかを教えてくれるマークや目印のことだ。CFPとは、製品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至る「ライフサイクル」全体で排出される温室効果ガスをCO2に換算して可視化する仕組みである。

“エコラベル学習キット”で学び、売り場に足を運ぶ購買行動を喚起

こうしたエコラベルやCFPを学ぶ“エコラベル学習キット”を開発し、製品やサービスの購買行動に結び付ける活動を推進しているのが、日本総合研究所(以下、日本総研)のイノベーション共創推進部だ。

エコラベル学習キットの一部(出典:日本総合研究所)

活動を推進する「グリーン・マーケティング・ラボ(GML)」は2023年に設立され、「チャレンジ・カーボンニュートラル・コンソーシアム(CCNC)」を主催。参画企業や自治体と共に「みんなで減CO2(ゲンコツ)プロジェクト」という実証事業を公民連携で推進している。

2025年度は、大阪府、兵庫県、奈良県、京都府、横浜市の5自治体と連携し、関西を地盤とする万代、スギ薬局を全国展開するスギホールディングスなどの小売り、メーカーやソリューションパートナーを含めた民間15社の参画企業と共に活動を展開。対象は、連携自治体の小学校に通う4~6年生約53万人とその保護者である。

みんなで減CO2(ゲンコツ)プロジェクトの全体像(出典:日本総合研究所)

具体的には、まず、自治体や学校を通じて子供たちにエコラベルやCFPを学ぶ学習キットを配布し、学習キットと連動する「エコラベルハンター」と称した学習コンテストを夏休み期間に開催。子供たちが家の中や売り場でエコラベルやCFPが表示されている商品を探し、ウェブサイトに登録する仕組みを整えた。

子供が熱心にエコラベルを探せば、親も必然的に売り場へと足を運ぶことになる。小売店舗ではこれに呼応してキャンペーンを展開し、学習した内容を実際の購買行動へと促す。

ここで重要なのは、単に対象商品を安売りするのではなく、「エコラベルが付いている商品」のみをキャンペーン対象とすることで、消費者が商品を手に取り、その環境価値を確認する「一手間」を意図的に作り出した点だ。生活者の「学び」と「購買」を直結させ、教育と購買を「一気通貫」で設計することを中心に据えている。

大阪府内の小学校への出前授業風景(左)と万代での店頭キャンペーンの陳列棚(右)(出典:日本総合研究所)

原点は、20年以上にわたりエネルギー・環境分野でコンサルティングに従事してきた担当者の「もどかしさ」にある。企業がどれほど脱炭素に努力を重ねても、最終消費者である生活者がそれを「購買」という形で応援しなければ、その努力は持続可能にはならないからだ。

POSデータ分析で、「学び」が売り上げを押し上げる効果を実証

プロジェクトで明らかになった最大の成果は、「教育啓発が購買を促進する」という仮説を定量的に証明したことにある。これまで、環境啓発活動の効果はアンケートによる意識調査にとどまることが多かったが、本プロジェクトではPOS(販売時点情報管理)データ分析を敢行した。

2025年8月の実証期間中に万代での店頭キャンペーンに参加した層を分析した。その結果、学習キットで学び、エコラベルハンター企画を通じて「濃厚な学習」を行った群(教育啓発群)は、単に店頭キャンペーンで来店して購買した群(非学習群)に比べて、購入金額や単価、個数といった主要な購買指標を20~30ポイントも押し上げたのである。

教育啓発による購買行動(金額・単価・個数)への効果(出典:日本総合研究所)

さらに、特筆すべきは「継続購入」への波及である。実証期間終了後の2カ月間にわたる追跡調査の結果、学習啓発を伴った群は、非学習群に比べて初回購入率が高いだけでなく、その後のリピート率も上回る傾向を示した。

アンケート調査でも、生活者の意識の変化が如実に表れている。「エコラベルがあるから初めてその商品を買った」という層が3割弱に達し、「いつもより少し高いが、環境に良いので購入した」という行動変容も確認できた。これは、適切な「学び」が提供されれば、消費者は価格に縛られず、環境価値を評価する「応援消費」へとシフトし得ることを示唆している。

組織の壁を越えて、広告・販促費22兆円市場の「グリーン・エージェンシー」へ

このプロジェクトを立ち上げ、実装に至るまでの道程には、既存の組織構造に起因する大きな壁があった。教育啓発と販促購買の「横断領域」を扱うがゆえに、行政、企業ともに「どの部署が担当すべきか」という所管の曖昧さが障壁となったのである。脱炭素の文脈ではサステナビリティ部門、モノの販売の文脈ではマーケティングや販促部門と、役割が分断されているため、社内推進が宙ぶらりんになりやすい。

GMLでは、各組織内のキーパーソンを地道に発掘し巻き込むことで、この壁を突破してきた。当初は実態のない「概念」だけの提案に難色を示す企業も多かったが、1年目の実証結果を可視化したことで、参画企業は初年度の7社から2年目には2桁へと着実に拡大している。

その根底にあるのは、年間約22兆円に上る日本の広告・販促費の一部を脱炭素の教育啓発へと再配分する役割を担う「グリーン・エージェンシー」構想である。単に売り上げを伸ばすための短期的な広告・販促を支援するのではなく、企業のインテグリティ(誠実さ)に根差して生活者のリテラシーを高めることで持続可能な市場を創出する。そのためのエージェンシー機能をGMLが担っていこうというわけだ。

「自律協生社会」を目指して、“ニャートラル”と共に描く未来

プロジェクトは今後、対象を小学生から中学生、高校生、そして大学生へと段階的に拡大していくことも計画中である。小学生の時に学んだ子供たちがその後リーダーとして脱炭素をけん引し、成長に合わせて学び続けられる環境を提供する。そうした流れを作ることで、脱炭素を一時的なムーブメントではなく、次世代の「文化」へと定着させることにつながる。

GMLでは、“ニャートラル”というキャラクターもデザインした。猫を模しており、鳴き声とカーボンニュートラルを組み合わせて名付けたものだ。ニャートラルは、啓発を「難しく、堅苦しいもの」から「親しみやすく、楽しいもの」へと変えるための象徴である。着ぐるみは各地での催事に加えて、ファミリーデーなどの社内イベントに登場し、社内エンゲージメント(愛着心)の向上にも一役買っている。

プロジェクトのキャラクター“ニャートラル”の着ぐるみ
(出典:日本総合研究所)

このプロジェクトで日本総研が掲げるビジョンは「自律協生」である。情報があふれる現代において、消費者がSNSなどのターゲティング広告に誘導されるがままに購買するのではなく、自らの意思で情報を取捨選択し、環境に配慮した購買行動を自律的に選択できる社会である。ニャートラルと共に、脱炭素の自律協生社会を目指していく。

 ジャーナリスト堀純一郎が住友のDNAを探る
公民連携により生活者の購買行動を変えるという「みんなで減CO2(ゲンコツ)プロジェクト」は、住友グループの事業精神である「自利利他 公私一如」を、現代に体現する試みである。自らの利益(私)と社会の利益(公)は相反するものではなく、一つのものであるという考え方そのものだ。GMLが主導するこのプロジェクトは、まさに、住友の本流をいく取り組みである。
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