住友が取り組む社会課題 ~未来への羅針盤~

住友重機械工業×先端医療

がん患者に希望の道を開く、画期的な医療機器が世界で初めて承認を取得

 先端医療
技術の進化と高度な医療機器の登場により、かつては治療が難しかった病気やケガの治癒が可能となり、より多くの人命を救えるのはもちろん、病気の早期発見や診断の精度も向上した。患者のQOL(Quality of Life)をサポートする医療も進んでいる。例えば、ロボット支援手術や、全身のがんを診断できるPET/CT検査なども、飛躍的に進化を遂げている。こうした医療の進歩には、大学などの研究機関はもとより、企業による最先端技術への取り組みが大きく寄与する。住友重機械工業は、手術など他の手段の適用が難しくなったがんの治療を可能とする新たな医療システムを開発し、医療の進歩に貢献している。

がんは依然として人類が直面している大きな課題である。とりわけ従来の方法では治療が難しいがんの克服は、高いハードルとして存在し続けている。しかしそうした難治性がん治療の課題も、最先端技術の活用によって解決が模索され、さまざまな取り組みが現実に動き出している。
がん治療では放射線・化学(抗がん剤)・外科(手術)が3大治療法とされる。このうち、放射線治療を受けた後に局所再発したがんは、がん細胞の周囲の正常細胞に悪影響を及ぼす懸念から放射線治療を再び行うことは難しい。そんな中、照射は1回、一度放射線で治療した部位にも適用可能という画期的な放射線治療法が生まれている。「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT : Boron Neutron Capture Therapy)」と呼ばれるこの治療法を実現する、世界初の医療機器を製造・販売しているのが住友重機械工業だ。

世界で初めてBNCTに使用する医療機器として承認を得た「NeuCure®(ニューキュア)」。

BNCTは、がん細胞に取り込まれやすいホウ素(Boron)化合物の薬剤を患者の体内に投与し、外部から中性子線を照射。これによりホウ素と中性子が核分裂反応を起こし、がん細胞を破壊するという治療法だ。従来の放射線治療とは、中性子を利用すること、薬剤と組み合わせて使うことの2点で大きく異なる。

体内で起きる核分裂破壊の様子。ホウ素が中性子を捉えて、がん細胞の中にα粒子とリチウム粒子を生成。この2つの粒子ががん細胞を局所的に破壊する。

中性子をがん治療に用いるアイデア自体は、中性子の存在が証明された1930年代から考えられていた。日本でも1968年、特定の元素を取り込んだがん細胞に中性子線を照射する中性子捕捉療法の臨床研究が始まっている。その後、上述のホウ素化合物も開発され、研究が進められてきた。ただ、中性子を発生させるために原子炉が必要であったことから、医療施設への普及という点では現実的に高い壁が存在した。
この壁を突き崩したのが、住友重機械工業が開発した小型のBNCT用加速器(サイクロトロン)である。

NeuCure®に採用されているサイクロトロンの加速器部分。水素の負イオンを加速して高いエネルギーの陽子を取り出し、陽子ビームを生成する。

同社では、サイクロトロン自体は1970年代前半から開発していた。当初は大学や研究機関向けの物理研究用として開発したものだったが、その後、医療用としての応用が期待され、1980年代以降、がん診断のPET(ポジトロン断層撮影法)や陽子がん線治療システムなどに用いるサイクロトロンを開発・提供してきた。

医療用サイクロトロン開発で培った知見を活かしつつ、水素の負イオンを発生させるイオン源を装置の外に出すことで小型化と大電流化を実現。さらには陽子ビームをターゲットのベリリウムの金属板に当てる際、板が高熱で破壊されるのを防ぐため、陽子ビームを円軌道上で動かしベリリウム板表面の熱集中を避ける、冷却水をスパイラル状に効率的に循環させる、内部がビームの影響を受けにくいようにベリリウム板の厚みをコントロールするといった工夫も加えた。

サイクロトロンのビーム輸送装置部分。加速器で生成された陽子ビームを運ぶ。
輸送されたビームをベリリウム板に当て、中性子を発生させる。この中性子をがん細胞に照射する。

さまざまな試行錯誤の末、サイクロトロンを用いた小型BNCT治療システム「NeuCure®(ニューキュア)」の開発に成功。巨大な原子炉が不要になり、病院などにも設置することが可能となったこのシステムの1号機は、2009年、システムを共同開発した京都大学原子炉実験所(現・京都大学複合原子力科学研究所)に納入された。以降、2015年に福島県郡山市の総合南東北病院、2019年には大阪府高槻市の大阪医科大学(現・大阪医科薬科大学)にも同システムを納入し、治験を進めてきた。

そして2020年3月、「NeuCure®」は厚生労働省から新医療機器として製造販売承認を取得するに至る。BNCT用医療機器が承認を受けたのは世界で初めてのことだ。さらに同年6月には、頭頸部がんに対するBNCTの保険適用が認可され、総合南東北病院の南東北BNCT研究センター、大阪医科薬科大学の関西BNCT共同医療センターで治療がスタートしている。

照射2時間前、BNCT用ホウ素薬剤を投与する。事前に、治療部位によって座位か臥位の体位を選択し、照射を行う。

現時点での適用は、頭頸部がんの中でも手術や放射線治療、化学療法など標準治療を経て再発し、切除不能ながんを対象としている。脳腫瘍(再発悪性神経膠腫)への使用についても先駆け総合評価相談を実施中である(2021年12月時点)。また、今後も一人でも多くの難治療患者の期待に応えるため、BNCTの適用拡大、さらには日本国内にとどまらず世界への展開を目指していく。

住友重機械工業
https://www.shi.co.jp/
住友重機械工業は、1888年に別子銅山で機械の修理工場として創業して以来、変減速機、プラスチック加工機械、産業用クレーン、油圧ショベルなどの各種産業機械や環境施設、船舶など多様な製品群を提供してきた総合機械メーカーです。半導体・液晶製造装置や医療装置など最先端の製品を開発し高度化・多様化するニーズにも対応してきました。今後も技術開発を積極的に推進し、社会と産業の発展に貢献していきます。

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近年における医療の飛躍的な進歩には、大学等の研究機関はもとより、企業による最先端技術への取り組みが大きく寄与しています。

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