住友が取り組む社会課題 ~未来への羅針盤~

三井住友信託銀行×脱炭素、サプライチェーン

企業活動が環境・社会などに及ぼすインパクトを包括的に分析・評価し、
融資により継続的にサポート

 脱炭素
地球温暖化の原因となる温室効果ガス(GHG)、とりわけ大きな影響をもたらす二酸化炭素(CO2)の排出を抑制し、GHGの実質的排出ゼロを目指すこと。カーボンニュートラルとも呼ばれる。日本政府は、パリ協定が掲げた世界の平均気温上昇抑制と今世紀後半のGHG排出実質ゼロという目標を達成するため、2030年までにGHG排出を2013年度比で26%削減する目標を設定。2020年10月には、2050年のカーボンニュートラルを目指すことを当時の菅義偉首相が宣言した。2021年4月の米国主催気候サミット(オンライン開催)においては、2030年までにGHG排出を2013年度比で46%削減する目標を表明した。三井住友信託銀行は本業のファイナンスにより、投融資先企業のCO2排出削減など脱炭素社会追求にプラス影響を与える取り組みの拡大と、マイナス影響を及ぼす事業の抑制・改善を支援している。
 サプライチェーン
ESGが企業価値を測る重要な要素となったことで、企業はグループ企業や関連会社、原料調達先なども含め、製品・サービスのサプライチェーンにおけるさまざまな課題への対応を求められている。サプライチェーンにはCO2や汚水、有害物質の排出、森林破壊、海洋汚染といった環境への影響はもちろん、調達先の人権問題、労働環境、さらには企業ガバナンスなど多様な課題が存在する。こうした課題への適切な対応を行わず、情報開示などを怠ると、ひいては自社の事業に悪影響を被ることになる。三井住友信託銀行では、ポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)で川上から川下まで事業全体にわたってサプライチェーンを精査し、その影響を洗い出すことで、投融資先企業の価値向上を実現する。

企業のESGの取り組みをめぐる市場は変化を続けている。2006年、国連が責任投資原則(PRI)を策定し、機関投資家に対して投資の意思決定プロセスにESGを組み入れることを要求。これを機に、現在の巨大なESG市場の形成が始まっていった。この時点での投資手法は、経済的な「リスク」と「リターン」を分析し、その結果に基づき投資判断を行うというもの。それに対して2007年、米ロックフェラー財団が、従来のリスク、リターンの2本軸に、投資先の企業活動が及ぼす社会や環境への影響、すなわち「インパクト」という第3の軸を加え、財務的リターンと並行して社会的・環境的リターンも重視する「インパクト投資」を定義した。

2017年、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)が「ポジティブ・インパクト金融原則」を策定し、2019年にはUNEP FIが提唱する「責任銀行原則(PRB)」が発足した。三井住友信託銀行は信託銀行として本業のファイナンスで社会貢献することを目指し、PRBの発足時から参画。2019年3月、世界初となる先進的なポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)の取り組みを開始した。

「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」のフレームワーク。ポジティブ・インパクト・ファイナンスは、企業が環境・社会・経済に与えるインパクトを評価するコーポレートファイナンスによって、資源配分をはじめとする価値創造プロセスの効率的、効果的な運営を支援し、活動と成果の循環的な向上をサポートすることを目指す

PIFは、企業活動が環境・社会などに及ぼすインパクトをポジティブ(プラス)・ネガティブ(マイナス)の両面から包括的に分析・評価し、その活動を融資により継続的にサポートする取り組みだ。主に上場企業の全ての事業を評価対象とし、サプライチェーンや製品のライフサイクルを俯瞰して、どこにポジティブまたはネガティブなインパクトが発現しているかを見ていく。その上で、ポジティブなインパクトであれば最大化、ネガティブなら最小化するためのモニタリング指標(KPI)を設定し、SDGsとも紐付けながら、企業の価値向上を一緒になって支援していくのがPIFの目的である。

三井住友信託銀行がこれまでに行ったPIF事例は17件。そのいくつかを見ていこう。住友ゴム工業はCO2の排出削減に向け、どの施策にリソースを優先配分すれば最も効果的であるかを割り出すためPIFに取り組んだ。分析・評価の結果、主要製品のタイヤは、ライフサイクルにおけるCO2発生量の80〜90%を走行時が占めることがわかった。そこで走行時のCO2を削減するため、タイヤの低燃費化に向けた取り組みの進捗率を指標にし、現在は実際の削減効果をモニタリングしている。

住友ゴム工業のDUNLOP「エナセーブNEXTⅢ」は、同社の「SMART TYRE CONCEPT」の性能持続技術を採用したフラッグシップ低燃費タイヤ。ウェットグリップ性能の低下を半減させる「水素添加ポリマー」と、低炭素社会の実現にも貢献する高機能バイオマス素材「セルロースナノファイバー」を世界で初めてタイヤに用いた

住友金属鉱山では、資源・製錬・材料の3事業連携による競争優位性を強みとして「世界の非鉄リーダー」を目指しており、その実現に向けて「2030年のありたい姿」を策定している。これにおける11の重要課題を6つのインパクト項目にまとめ、PIFを設定した。その中でも、三井住友信託銀行は脱炭素化に向けた世界的な流れの中で重要度を増すと考えられる、電気自動車(EV)の車載用電池材料に着目している。EVの普及に貢献するニッケルの供給確保や、車載用電池のリサイクル技術に関してモニタリング指標(KPI)を設定した。

住友金属鉱山がフィリピンで操業中のニッケル製錬プラント。電動車用バッテリーなどで必要性が高まっているニッケルを低品位鉱から回収している

また、住友林業グループでは、年間の温室効果ガス排出量1,000万t-CO2e強のうちスコープ3が96.3%とそのほとんどを占め、スコープ3のうち販売した戸建住宅の居住時の排出量が64.6%を占めていた(2018年度)。三井住友信託銀行は、温暖化対策にあたってはスコープ3のカテゴリー11の排出量削減における寄与度が高いインパクトを与えると判断し、「2030年のスコープ3のカテゴリー1および11合計の温室効果ガス排出量を2017年比16%削減する」という同社のSBT目標をPIFの目標として設定。主たる施策であるネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)の推進状況や、環境配慮型リフォームの受注率、国内木造建築における炭素固定量、環境緑化事業における環境配慮商品受注率をモニタリング指標と設定した。

  • SBT(Science Based Targets):パリ協定の水準に整合した、5年~15年先を目標年として企業が設定する温室効果ガス排出削減目標のこと
住友林業による環境配慮型住宅(太陽光発電)の事例

また、企業のもたらすポジティブ・インパクトについて評価した取り組みもある。大日本住友製薬は研究重点3領域(精神神経、がん、再生・細胞医薬)などの研究開発やプロジェクト進捗、新薬使用状況などに指標を設定している。同社が注力するのは精神神経領域・がん領域をはじめ、国内外の患者数が多く今後も患者数増加が見込まれる領域だ。患者の早期社会復帰を実現することにより、社会的のみならず経済的に与えるポジティブ・インパクトも非常に大きいと容易に予測される。

大日本住友製薬は、研究重点3領域(精神神経、がん、再生・細胞医薬)および価値にフォーカスしたベストインクラスの研究開発・プロジェクトの進捗状況・新薬の使用状況について、融資期間にわたるインパクト指標(KPI)に設定した。出所:2021年度(2022年3月期)第1四半期決算カンファレンスコール説明資料

企業のSDGsやESGに対する関心が高まる中、同行はPIFによって投融資先の企業価値向上を実現し、さらにその先で持続可能な社会への貢献を目指している。もともと同行では、アジア最大規模の信託銀行として社会に資する資金循環を実現するため、国内初の社会的責任ファンドを設立するなど、早い段階からESGを意識したビジネスを展開していた。直接的なCO2排出量が少ない銀行にできることとして、ファイナンスにより投融資先の事業活動に影響を及ぼすことで、より広い社会貢献につなげるという考え方だ。

こうした考え方の中で、PIFは事業のインパクトを評価・分析し、それをもとにプラスの影響を拡大し、マイナスの影響は抑制するという改善の実施に資金面で寄与するものであり、脱炭素やサプライチェーン最適化などに効果を期待する。今後については、インパクトをより正しく評価するため、金融機関としてテクノロジーの理解をさらに深めていくことがテーマだという。現在、カーボンニュートラルに向けたエネルギー、デバイス、ケミカルなどの分野で高度な専門性を持つ人材を採用し、TBF(Technology-based Finance)チームを組織している。PIFにより、インパクト評価と合わせて企業のイノベーション創出も支援することで、信託銀行の本業としての社会的責任を果たしていく。

⼤⽇本住友製薬株式会社は、2022年4⽉に社名を住友ファーマ株式会社に変更しました。
記事中の社名、人物の所属・肩書は掲載当時のものです。

(⼤⽇本住友製薬株式会社は、2022年4⽉に社名を住友ファーマ株式会社に変更しました。記事中の社名、人物の所属・肩書は掲載当時のものです。)

三井住友信託銀行
https://www.smtb.jp/
三井住友信託銀行は、信託の受託者精神に立脚し、高度な専門性と総合力を駆使して、銀行事業、資産運用・管理事業、不動産事業を融合した独自のビジネスモデルにより、お客様にとってトータルなソリューションを迅速に提供してまいります。

各社が取り組む社会課題

脱炭素 パネルイメージ

脱炭素

地球温暖化の原因となる温室効果ガスの実質排出量ゼロを目指す、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを紹介します。

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サプライチェーン

サプライチェーンのグローバル化や複雑化に伴い、企業にはサプライチェーン上で発生する課題への適切な対応が求められています。

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新しい働き方

新型コロナウイルスの感染拡大により多くの企業が従来型の働き方を見直したことで、働き方改革が加速しています。

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健康

新型コロナウイルスの感染拡大により、企業にとって従業員の健康への配慮はよりいっそう重要なテーマとなっています。

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気候変動

地球温暖化の進行はビジネス上の深刻なリスクを引き起こす可能性があります。そのため、企業には中長期的視点での戦略策定と具体的な対策が求められています。

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モビリティの電動化

環境負荷軽減への対応や社会的ニーズの高まりとともに、モビリティの原動力がガソリンから電気へと置き換わりつつあります。

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コミュニティ

人と人のつながりであるコミュニティを再生・再構築することで社会課題解決に向き合う動きが活発になっています。

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貧困

子どもの貧困問題への対応が喫緊の課題になるなど、現代の日本においても貧困は深刻な社会課題の一つとなっています。

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次世代の育成

日本では少子高齢化の進展に伴う労働力人口の減少により、次世代を担う人材の育成が急務となっています。

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先端医療

近年における医療の飛躍的な進歩には、大学等の研究機関はもとより、企業による最先端技術への取り組みが大きく寄与しています。

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地産地消

再生可能エネルギーを生かし、地産地消を通じて脱炭素に貢献しながら産業振興も目指す取り組みが各地でスタートしています。

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食品ロス

世界では食料生産量の3分の1に当たる約13億トンが毎年廃棄されているとされ、食品ロスの解決は一刻を争う課題になっています。

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地球環境との共生

人と企業が地球環境との共生を図っていく上で、対応すべきさまざまな課題について、各社の取り組みを紹介します。

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強靭性・回復力

自然災害だけでなく、さまざまなハザードがあり、その姿は時代とともに変化し、激甚化もしています。それに負けない強靭性や回復力を持つしなやかさが求められています。

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地方創生

地域の資源を生かして産業を強化することで、地方の人口減少を克服し、持続的な社会を創生する取り組みを紹介します。

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