つぼいひろきの住友グループ探訪
住友精化 姫路工場

1960年設立。瀬戸内海に面した播磨臨海工業地帯に位置し、
高吸水性樹脂「アクアキープ」および機能化学品の主力工場として稼働している。

  • 住友精化 姫路工場
こんな大きな設備からおむつの中身は作られるんだ!! こんな大きな設備からおむつの中身は作られるんだ!!
ようこそ 姫路工場へ

姫路工場の出発点は、近隣の製鉄工場(当時の富士製鐵)から出る排ガスを再利用してアンモニアやメタノールを製造するという取り組みだった。製鉄と化学の画期的なコラボレーションとして、当時も話題になったという。

二児の父として、ボクも何度となくお世話になった「紙おむつ」。オシッコが漏れないようにしっかりホールドしてくれているのが「高吸水性樹脂」だ。動画サイトで「紙おむつの吸水性能はいかほどか?」という実験を見たことがあるけれど、500mℓペットボトル1本分は確実にクリアしていた。この優れ物は、一体どのように作られているのだろうか?

というわけで、今回訪れたのは高吸水性樹脂「アクアキープ(通称AK)」の製造元である住友精化の姫路工場。サニタリー用品のイメージからか、ボクの勝手な想像としては、無機質な白い部屋の中で、粉末状の吸水性樹脂がガラス管をサラサラと流れていく……みたいなシーンを思い描いていた。ところが、まず案内されたのは、真夏の照りつける日差しの下、巨大なタンクがドカンと4つ立ち並ぶ区画。この中に、アクアキープの主原料である「アクリル酸」が入っているのだという。

この姫路工場で製造されるアクアキープは年間20万t。その原料となるアクリル酸がすべてここに集まっているわけで、スケールの大きさにも納得だ。ちなみに、これらのアクリル酸は船で工場まで運ばれてくる。姫路工場は瀬戸内海に面しており、ほのかに潮風の香りが漂う。

「アクリル酸は、温度管理を誤ると自然重合という化学反応を起こして発火してしまうなど、非常に取り扱いが難しい薬品です。ですので、これだけのタンクを持って運用しているのは弊社だけなんですよ」と胸を張るのは、副工場長の谷川秀司さん。おむつは意外にも過酷な条件をくぐり抜けて生まれるのだ。

化学工場らしく、敷地内にはパイプが網の目のように、芸術的なまでの複雑さで張り巡らされている。アクリル酸はこれらのパイプを通って、アクアキープを製造する「AK設備」の工程へと送られていく。

「この工場にある一番古い設備ができたのが1983年のこと。以後、紙おむつの需要の伸びとともに増設が繰り返されてきました。急速に伸びたのは1990年代に入ってからですね。2000年代以降は、ほぼ2年に1回のペースで増設され、しかも設備そのものがスケールアップしています。それだけ需要が拡大しているということなんです」と説明するのは、総務人事室の藤原学さん。

1980年代半ばまで、紙おむつは旅行などの特別な場面で使われるだけの「貴重品」だった。それが、現在のように日常的に使われるようになっていった歴史を今に伝えるのが、姫路工場のAK設備というわけだ。「中国や発展途上国を中心に、まだまだ紙おむつの需要は伸びています。その意味では、この先さらに事業を拡大する可能性もありますね」(藤原さん)

子どもにも大人にも快適に使ってもらえるよう常に研究を続けています! 子どもにも大人にも快適に使ってもらえるよう常に研究を続けています!

AK設備(写真上)で製造されたアクアキープは、いったんペンシル型のサイロ(写真)に蓄積された後、圧縮空気の力でパイプ内を飛ばされて、包装エリアに送られる。そこから世界各地へ輸出されていくのだ。

品質の高さに定評がある住友精化のアクアキープだが、高吸水性樹脂の品質とは、やはり「どれだけ吸収できるか」という性能にかかっているのだろうか?

「おむつって実は難しくて、単によく水分を吸うだけではダメなんです。赤ちゃんがオシッコした時、一瞬で吸ってしまったら気づきませんよね。つまり『気づく余地を少しだけ残して吸う』という、さじ加減が求められます。こうしたニーズはおむつメーカーさんによって異なるのですが、吸水速度を細かくコントロールして、様々なニーズに応えることができるのが弊社の強みなのです」(谷川さん)

吸水速度がコントロールできるというのは盲点だった。一瞬で吸水することが求められる例としては「通信ケーブルの止水材」といった用途があるという。インターネットの海底ケーブルは表面がビニールなどで被膜されているが、万一それが破れたときでも芯のケーブルにまで水が浸入しないよう、アクアキープが保護するというわけだ。

アクアキープの吸水力を実験

高吸水性樹脂の働きは「水の分子をがっちり捕まえる」というもの。水の分子の動きを封じて固形化するという仕組みだ。実験では、普通の紙おむつに入っているタイプのアクアキープ(約3g)の上から300ccの水を投入。約30秒たった時点で、ビーカーの中身はすべて半固体になっていた。ビーカーを逆さにして振ってみてもびくともせず。聞きしに勝るホールド力に一同歓声!

とはいえ、アクアキープの主戦場はやはり紙おむつ。高齢化が進む現在、成人用おむつの需要も急速に高まっている。

「介護用品の枠にとどまらず、おむつをはいたまま外に出てジョギングできるような、健康な高齢者の日用品としてのおむつのニーズが今後は増えていくでしょう。『ローライズのおむつが欲しい』という声もあるほど。もっと薄くて、臭いがしなくて、漏れないおむつを……というニーズに的確に応えるため、研究開発に力を入れています」(藤原さん)

高齢者も、大きなおむつをはくのは抵抗があるのだ。これからのおむつは、普通のパンツとそれほど変わらない感覚ではけるような形に進化していくのだろう。

その一方で、世界には「紙おむつそのものがこれから普及していく」という段階にある国々も多く存在する。ある調査によると、1人当たりのGDPが3000ドルを超えたときに、子ども用の紙おむつの普及は一気に進むというが、インドやアフリカ諸国などは、まだその手前だ。

「こうした国々では、子どもを育てるのに先進国以上に手がかかるため、なかなか女性の社会進出が進みません。あるいは、生理用品が使えないから生理中は学校に行けないという女性もいます。紙おむつや生理用品が普及することで、教育を受けて、働く機会を得られるようになる人々は大勢いるのです。私たちの願いは、アクアキープを使った製品を世界中に届けることで、社会の発展に貢献していくことです」(谷川さん)

まさに「おむつは世界を救う」! 見慣れた製品が、とても尊く感じられた1日だった。

おむつがライフスタイルを変える!

本当にこの粉がおむつに入っているのかなー
ということで家で開けてみた この粉がボクたち子育て世代やシニア世代を助けているんだ!
でも正直、自分がおむつをはくことに抵抗はない? フフ……大丈夫だよ!
ローライズおむつなどはきやすいおむつ用の樹脂の開発も行っているんだって! それならはいてもよさそうね!

編集スタッフの取材後記

本誌でも紹介しましたが、おむつの吸収力は、赤ちゃんが排尿に気づいて不快感を覚える間を残しつつ、溢れることがないようにしないといけません。とにかく早く大量に吸収してしまうことが大事だと考えていた私たちですが、実験を交えながら丁寧に解説してくださった今回の取材を通して、おむつの奥深さを改めて知りました。ちなみに、この技術はショーウィンドウなどで見かける人工雪にも応用されているそうです(写真2点)。
おむつと人工雪――、意外な技術のつながりを改めて知る貴重な取材になりました。

マンガルポ「住友グループ探訪」 ナンバー

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