テーマ5
SDGsと住友「環境」

 ワンポイント解説
SDGsは気候変動を最重要課題の一つとして捉えています。CO2の吸収・貯蔵の役割を果たす森林の豊かさを守ることは気候変動対策につながり、また地球温暖化による海水温の上昇などは海の生態系に影響を与え、私たちの食料資源である水産資源の減少につながるなど、陸や海の資源は気候変動と密接に関わっています。気候変動に大きな影響を与え、そして気候変動から大きな影響を受ける、陸や海の豊かさを守ることは、世界がコロナ危機に見舞われている中においても、優先して取り組むべき課題であることに変わりはありません。
そのような中で、高層建築物の木化(木造化・木質化)を進める、住友林業の環境木化都市構想は気候変動対策として効果が期待されています。また、住友ベークライトの青果物の鮮度を保持する包装フィルム「P-プラス®」はフードロスの削減につながり、結果的に野菜や果物を焼却処分する際に発生する温室効果ガスの排出抑制にもつながるなど、住友グループの様々なアプローチによる気候変動対策や、自然がもたらす資源を無駄にしないための取り組みにますます注目が高まっています。

日経BPコンサルティング
SDGsデザインセンター長
古塚 浩一

住友電気工業

独自の技術で水問題に貢献、水処理膜「ポアフロン®」が可能にする未来

「水質汚染防止行動計画」が定められ、汚染物質排出規制の強化が進む中国で、2019年10月に稼働開始した四川省簡陽市石盤鎮汚水処理場に納品されたポアフロン®モジュール。

人口増加や経済発展、生活水準の向上等に伴い、水需要は全世界で増加している。水問題はSDGsにおいて主要な目標として設定され、世界の水ビジネス市場は拡大の一途をたどっている。産業排水の分野では、排水処理における水質改善要求が強まっている中国をはじめ、大量の超純水を必要とする半導体産業が盛んな韓国、台湾や東南アジアにおいて、高度な水処理技術の需要が高まっている。富士経済によれば、高度な水処理を可能とする水処理膜の2018年の世界市場規模は、2011年に比べ3割増しの約1083億円(うち、産業排水・下水処理用途は553億円)に達した。

住友電気工業は、独自開発した「ポアフロン®」の材料技術をベースに水処理膜(水処理用のろ過モジュール)を開発し、本業による水環境改善への貢献を推し進めている。産業排水や下水を河川などの自然環境に放流したり、工場等で再利用するためには、水処理膜等で適正な水質基準まで浄化する必要がある。しかし、こうした汚水には、多くの場合、有機物や油分等様々な成分が含まれており、従来の水処理膜では目詰まりを起こしやすく、また汚れた膜の性能を復帰させるために用いる薬品により、膜素材そのものが早期に劣化するなど、製品寿命に課題があった。

顕微鏡で見た単体のPTFE中空糸膜、ポアフロン®。これを多数束ねたモジュールとすることで精密ろ過器となり、水・液体中の最小50nmの微粒子や、微小な油滴などを除去できる。

2000年頃、水環境問題に対する世界的な意識の高まりを受け、住友電気工業は独自に開発していた材料「ポアフロン®」に着目した。ポアフロン®はPTFE(四弗化エチレン樹脂)を使った材料で、多孔質、つまり微細な穴が数多くあり、耐薬品性・耐熱性・耐久性に優れるという特徴がある。同社がポアフロン®を開発したのは1960年代前半のことで、半導体製造用の高純度薬液のろ過や人工血管などの用途で実用化していたが、応用分野が限られ、より大きなビジネスチャンスを模索していた。

世界で水問題が注目される中、ポアフロン®が持つ強さと化学物質に対する安定性の高さが水処理に適しているのではないかと考えた同社は、ポアフロン®素材により、水処理に適したストロー状のフィルター(以下、中空糸膜)を開発し、これを多数束ねた水処理用精密ろ過膜モジュールを2003年に商品化した。

ポアフロン®による処理前の油分を含む排水(左)と処理後きれいになった水(右)。

当初は、膜の原料のPTFE樹脂や加工費が高価であったため普及は進まなかったものの、性能向上と並行してコストダウンを重ねた結果、中国などを中心に導入が増え、需要も拡大していった。現在は主に工場や下水処理場の水処理施設で採用されている。ポアフロン®は油分を含む排水処理にも強いため、台湾では水不足に悩む地域で大手石油精製企業の排水浄化施設への導入実績も生まれた。今後はさらなるコストダウンとともに、製品の良さを理解する現地パートナーを発掘して連携し、採用実績を伸ばしていく考えだ。

ポアフロン®モジュールを納品した中国甘粛省嘉峪関市嘉北汚水処理場。水処理量は35,000m3/ 日。

また現在、ポアフロン®の活用は産業排水や下水処理が中心だが、上水処理や海水淡水化といった造水を目的とした利用もできるため、今後、飲料水も含め安全で衛生的な生活用水に貢献していくことも視野に入れている。こうして、水処理市場におけるビジネス成功への手応えとともに、社内でも水環境保全に貢献する製品としての評価が高まっている。同社の水処理技術による地球的課題に向けた挑戦は、様々な可能性を包含しながら今後さらに発展していく見通しだ。

モジュールは中空糸膜の束で構成されている。
浸漬型モジュール。
加圧型モジュール。

住友ベークライト

高機能な鮮度保持フィルムを通じて、青果物業界の課題解決をトータルコーディネート

住友ベークライトは、電子部品、自動車、包装、医療、建材などの分野で利用されるプラスチック製品の総合メーカーである。同社は何十万トンものプラスチック製品を一気につくるのではなく、求められる用途に対して新しい技術で最適な機能を付加していくことを主たる事業としている。同社の機能性化学品であるプラスチックは、豊かな世の中を築くために不可欠な存在であり、適切に使用し、適切に廃棄およびリサイクルすることで、社会の持続可能な発展に寄与する製品として位置づけられている。2019年度を初年度とする中期経営目標では、そうした機能性プラスチックの可能性を広げ、社会課題の解決に貢献するために、SDGsに即した事業展開と製品開発を明言した。

世界で発生しているフードロスは、年間約13億トンにも上る。世界全体で生産された食料の約3分の1に相当する。この廃棄される食料のうち4分の1を有効活用できれば、世界の飢餓人口の約8億人を飢えから救うことができるといわれている。
※出典:国際連合食糧農業機関(FAO)「世界の食料ロスと食料廃棄」に関する調査研究報告(2011)

例えば、青果物の鮮度を保持する包装フィルム「P-プラス®」は、国連によるSDGsの目標設定以前の1989年に開発がスタートし、顧客ニーズに応じて進化しながら、今年30周年を迎える。同製品を通した住友ベークライトの取り組みは、「2.飢餓をゼロに」「3.すべての人に健康と福祉を」「12.つくる責任 つかう責任」など、SDGsの複数の目標に関連している。野菜や果物といった青果の鮮度保持期間が延びることでフードロスの削減(12.つくる責任 つかう責任)が可能となる。そして、フードロスを削減し続けることで飢餓人口の減少にもつながり、焼却処分する際に発生する温室効果ガスの排出抑制にもつながると考えることができるのだ。

製品ごとに個別の目標を設定している一方で、全社的に深く関わっているのは、プラスチックを扱う企業として無視できない「14.海の豊かさを守ろう」である。同社代表取締役社長の藤原一彦氏はインタビュー記事で「SDGsの目標年である2030年には、全社の売上の50%以上をSDGsに貢献できる製品にしていきたい」と語っている。

「P-プラス®」は、フィルムに数十㎛(マイクロメートル)の極小孔を加工することで酸素の透過量を調整し、青果物の品質低下を遅らせることを可能にしている。カット野菜、枝豆をはじめ、鮮度が落ちやすい商品の包装フィルムにおけるシェアは約7~8割。青果物の種類、重量、流通条件などに合わせて、孔の数と大きさを調整できるのが特徴だ。通常タイプの鮮度保持フィルムに加えて、内部の水蒸気をコントロールするタイプ、カビの増殖を抑制するタイプと組み合わせることができる。

スーパーなどに並ぶ青果物の鮮度を保持することで、おいしさ維持、変色防止、においの抑制などを実現し、商圏の拡大や出荷時期のコントロールまでもが可能になっている。

「P-プラス®」によって袋詰めされた青果物が日持ちするようになったことで、東北地方の青果物が西日本にまで商圏を拡大したり、出荷時期を調整することで通常入手できない時期に販売できるようになり付加価値の高い商品として単価を押し上げるなど、商品価値向上の効果も見られるようになってきた。

こうしたフードロス削減、商品価値向上に貢献する「P-プラス®」の機能は、青果物業界を大きく変える潜在力を秘めている。

青果物業界におけるサプライチェーン(商品の流れ)は、主に生産者、卸売市場、量販店の三者によって構成されているが、長年の問題点として、お互いの情報伝達が不足していたことは否めない。そのために、例えば生産者が高品質な果物を育てても評価されにくかったり、市場では廃棄する青果物が後を絶たなかったり、量販店では梱包材の発泡スチロール容器がかさばって扱いにくかったりなど、三者それぞれが困りごとを抱えながら解決できないでいた。

そんな状況において、同社は「P-プラス®」に関するPR活動や講習会を開くことで、それぞれが抱える課題の解決を目指すと同時に、三者をつなぎ相互メリットの見える化に努めてきた。いわば、「P-プラス®」の機能を活用して、青果物業界のコーディネーターとして活動してきたのである。

住友ベークライトの取り組み「青果物鮮度保持フィルム P-プラス® を用いた三者のバリューアップシステム」
「P-プラス®」を通じて生産者、市場、量販店というステークホルダーと長年関わってきた同社は、青果物業界が抱える長年の課題を解決するために、数年前からトータルコーディネートを事業としてスタートした。そこで大きな役割を果たしているのが、評価CSセンター(東京都中央卸売市場 大田市場に隣接/大阪市中央卸売市場本場内の2カ所)だ。包装の比較試験を行うほか「P-プラス®」で包装されたサンプルの食味や臭気の評価を行い、その効果を体感できるのが特徴で、大田市場を訪問する生産者や流通関係者に製品PRを行ったり、お困り事を聞く機会となっている。

こうした活動が評価され、2019年1月、同社は「食品産業もったいない大賞」の「審査委員会審査委員長賞」を受賞した。これは、単に鮮度保持フィルムの開発にとどまらず、青果物業界全体のトータルコーディネートが評価された結果であった。

第6回 食品産業もったいない大賞「審査委員会審査委員長賞」を受賞。

包装フィルムに限らず、機能性プラスチックそれぞれの市場は大きくない。しかし、そのニッチなマーケットにおいて、同社はSDGsという道しるべを見据えた新製品開発と営業活動によりトップシェアの獲得を目指している。この「ニッチ&トップシェア」の実現に向けて、住友ベークライトは邁進していく。

住友林業

「木の価値」を高める技術で環境木化都市の実現を目指す

住友林業は2041年を目標に高さ350mの木造超高層建築物を実現する研究技術開発構想「W350計画」を発表した。想定する建物は70階建てで、木と鉄を9対1の比率で組み合わせた木鋼ハイブリッド構造だ。

住友林業の歴史は、循環型で持続可能な資源である木の価値を高める歴史だった。同社の創業は1691年、住友家が四国・別子銅山開坑とともにその銅山備林の経営を担ったことに遡る。日本の近代化によって銅の需要が高まり、一時は過剰伐採が進んだものの、多い時には年間200万本以上という大規模な植林を実施して別子の山々は再生された。

現在、同社の事業は山林の管理育成から木材・建材の流通、住宅建築、再生可能エネルギー事業と幅広く、研究開発の分野ではバイオテクノロジーを用いた名木・貴重木の保存や、建築材に適した強い木の創出も行っている。

木の活用は、気候変動対策に大きな意味を持つ。木は大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収し、光合成を行って成長する。その木を伐採して建築材などに使用すれば、CO2は炭素として木の中に固定され、大気に放出されることはない。また、光合成が盛んなのは木が若い時期であるため、成熟した木を伐採した後に新しい木を計画的に植えることで、地球温暖化防止に大きな効果をもたらす。

こうした木の価値を広く一般に訴求するため、住友林業が2018年に発表したのが「W350計画」である。この構想は、同社が創業350年を迎える2041年を目標に高層建築物の木化もっか(木造化・木質化)を進め、街を森にかえる「環境木化都市」の実現を目指すというものだ。その象徴となるのが、高さ350m・地上70階、木材の使用比率9割という木造超高層建築物の建築計画だ。想定する木材使用量は一般的な同社の木造住宅の約8000棟分に相当し、CO2を炭素として固定する量は約14万t(CO2相当)に及ぶ。まさに都市の中に森が出現するイメージだ。

W350計画の推進と同時に、同社ではこれまで鉄筋コンクリートや鉄骨で建てられていた5、6階建てのオフィスビルやホテルなどの木化を目指している。木でできた建物には、そこで働く人の肉体的・精神的な健康状態を向上させる効果があり、生産性が向上したという研究結果もある。

W350計画実現に向けたロードマップ
2021年に実現の目途をつけることを目指すW30は高さ20~30メートル、地上6~8階の木造ビル。W30の建設を通して技術を磨き、W350計画の実現性を高めていく。

日本の木材自給率は2018年時点で36.6%であり、国はこれを2025年までに50%まで高めたいとしている。そのためには毎年約4000万m3の木材を使用し、再造林する必要がある。しかし、日本には木材資源が豊富にあるにもかかわらず、林業の低迷により、適切な管理がされずに放置されたままの森林が増加している。こうした状況を打開するため、住友林業は苗木生産の合理化、伐採・運搬のための機械の改良、林業従事者のためのアシストスーツ開発などによって、林業再生、地方の活性化にも取り組んでいる。

2041年に向け、住友林業は世界一の森林会社になることを目標としている。それが意味するのは木材の取り扱い量や植林面積の広さにおいてではない。木の価値を引き出し、高める技術において世界一の存在になることで、同社は人と社会、地球環境への貢献を進めていく。

W350計画の研究拠点として2019年10月に筑波研究所に完成した新研究棟。木構造を始めW350計画実現につながる先進技術を採用しており、木化を啓発するショールームとしての性格も併せ持つ。

日新電機

太陽光発電を活用した「雨庭」で環境保護と生物多様性に貢献

京都に本社を構える日新電機では、2014年より京都市と協働し、本社工場の敷地内で「生物多様性」に配慮した緑化の取り組みを行ってきた。この取り組みをさらに進化させたのが、2019年に新設された「日新アカデミー研修センター」の敷地内で実施されている「雨庭」プロジェクトだ。

「雨庭」が組み込まれた「日新アカデミー研修センター」。

雨庭とは、建物の屋根やアスファルトに降った雨水を一時的にタンクなどに取り込み、時間をかけて地中に浸透させていく仕組みを持つ庭のこと。雨水が一気に下水道に流れ出すことを防ぐことができるため、近年、頻発している「ゲリラ豪雨」による河川氾濫リスクへの対処法として注目されている。さらに、雨庭によって都市部に「湿地」をつくり出すことで、絶滅が危惧されている動植物への避難場所を提供することにもつながるという。

社会インフラを支える事業の担い手として、もとよりSDGsと理念を同じくしている日新電機では、来年度から始動する新たな中長期計画でも本格的にSDGsの考え方を組み込む考えだ。また、今年度内に2030年度に向けた温室効果ガスの削減目標について、「SBTイニシアチブ(SBTi:Science Based Targets Initiative)」の認定取得を目指しており、環境保全活動にも積極的に取り組んでいる。「雨庭」プロジェクトも、こうした取り組みの一環といえる。

新研修センターの雨庭では、一般歩道に面した部分に水路を含んだ区画を設けている。地下に設置された貯水タンクから、約3トンの水を約7日間かけてポンプで循環させて水景をつくりだし、水をじっくり浸透・蒸発させる仕組みだ。このポンプには、太陽光発電による電気を利用している。

本格的な雨庭機能を備えた大規模な緑地を実現するには、上記のような水循環システムの構築のほか、土地を整備する段階で砂利層を形成したり、透水管を設置したりする必要がある。企業の施設において、設計段階から雨庭の構想を取り入れたプロジェクトは全国的にもあまり例がなく、日新電機の取り組みは、今後の雨庭普及に重要なデータを提供するものとして期待されている。

本社工場の敷地から移植してきた希少植物フタバアオイ、ヒオウギ、キクタニギクなどが雨庭にしっかり根付いて花を咲かせている。カマキリなどの虫も自然と集う。

施工から1年余りが経過した今も、京都先端科学大学の協力のもと、植生のモニタリングが継続されており、様々な知見が集まりつつある。雨庭を維持するにあたってのコストや労力に関わるデータは、今後雨庭づくりに取り組もうとする企業や自治体にとっても大いに参考になるだろう。季節によっては雑草が大量発生するなど、想定を超えたメンテナンス作業も発生しているものの、持続的な展開は十分に可能だとの手応えを得ている。

水路で鳥が水浴びをしていたり、蝶たちが戻ってきたりと、街中では久しく見ることのできなかった風景を前に、社員からも「癒やされる」という声が寄せられている。近隣に住むファミリーが、緑地の前で立ち止まって会話している光景もおなじみになった。今後は、地域全体としての環境意識の向上に貢献すべく、勉強会なども積極的に企画していく考えだ。

水浴びをする「カワラヒワ」などの小鳥たち。

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