スーパーコンピュータでも解くのに数千年かかる素因数分解をわずか数十秒で計算できるとしたら…。今、そんな夢のようなコンピュータが現実に向かって大きく前進し始めている。量子コンピュータである。
現在のコンピュータのビットは、すべての情報を「0」か「1」で表している。量子コンピュータで用いる量子ビットも基本は「0」と「1」なのだが、その2つを重ね合わせた状態で表現しているのが特徴だ。つまり「1」であると同時に「0」であるというように、1つの量子ビットで複数の状態を表現できるのだ。この状態を利用すれば同時に複数の計算を行うことができる。いわば量子コンピュータとは、いくつものコンピュータを並列させたものといえる。
しかし量子コンピュータの実現には、量子を重ね合わせた状態とともに、複数の量子ビット間の状態があたかも1つの物体であるかのように分離できない状態を形成することが不可欠となる。これを「量子絡み合いの状態」と言うが、固体素子でこの状態をつくり出すことは極めて難しい。
2003年、NECは理化学研究所との協力により、この固体素子による量子絡み合い状態の形成に世界で初めて成功した。
「最初から量子コンピュータの研究をしていたわけではなく、もともとは別の固体素子をベースにした単一電子デバイスを研究していました。その研究が量子コンピュータの可能性につながると考えたのが1997年頃からで、その当時はまさか本当に実現できるとは思っていませんでした。まだ解決すべき課題はたくさんありますが、この8年間で思ったより早く研究が進みました」
と語るのは、このプロジェクトを主導してきた蔡兆申 NEC基礎・環境研究所主席研究員だ。現状ではまだ1〜2量子ビット程度の試作モデルだが、これが20〜30量子ビットというレベルになれば、現段階で最高のコンピュータの性能を抜くものになるという。「あと5〜6年くらいで量子ビットの集積化ももう少し進むでしょう」と蔡さんは言う。
「NECとしては、量子コンピュータはフラッグシップの技術ですので、常に世界のトップランナーでいたいと考えています。しかし短期間で実用的なシステムをつくろうというものではなく、長期的な視点で基礎技術の開拓を続けていきたいと考えています」とは、萬伸一 同研究所量子情報テクノロジーグループ研究部長。
量子コンピュータは、タンパク質反応解析や触媒材料解析など、膨大な事象の組み合わせをしらみつぶしに解いていくような演算に適している。また、盗聴が不可能な量子暗号通信にも応用できるという。
量子コンピュータの実現には、あっという間にあと数十年というところにまできている。私たちの次の世代では、ひょっとしたら今のパソコンと同じような感覚で量子コンピュータを使うことになるのかもしれない。
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