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住友老壮会

住友老壮会主催のフォーラムが平成17年6月6日に港区六本木の泉ガーデンギャラリーで行われました。これは4月8日に開催された住友老壮会春季大会の講演が盛況であったため、住友グループ各社役職員の現役に向けて再度開催され、530名が聴講しました。

なお住友老壮会とは住友グループ各社幹部社員のOB会で、「老壮」の出所は『後漢書』馬援伝です。「大夫(男子)志を為すに、窮すれば当に益堅なるべく(志を堅固にし)、老いては当に益壮んなるべし」と言った名将、馬援の言葉に由来しています。


フォーラム 〜住友グループの諸先輩が語る〜

「100年後の未来技術の展望と夢」
挨拶
老壮会 会長  秋山 富一 氏

住友商事株式会社 名誉顧問

講演
「100年後、人類は生き延びているか」

住友電気工業株式会社 顧問
中原 恒雄 氏


「地球と人の営み」

住友金属工業株式会社 元常務取締役
林  豊  氏

「ライフサイエンスとナノテクノロジー」

住友商事株式会社 取締役
副社長執行役員 輸送機・建機事業部門長
廣瀬 修二 氏
 
住友商事株式会社 取締役
常務執行役員 化学品事業部門長
北川 信夫 氏
(廣瀬氏海外出張のため、6月6日フォーラムで講演代行)

「脳、ロボット、コンピューター」

NEC
株式会社日本電気特許技術情報センター社長
渡辺 久恒 氏

「世界情勢と家庭生活」

日本板硝子株式会社 特別顧問
庄野 晋吉 氏


先進技術が切り開く新しい地平が見えてきた
 現代の先端技術は人類をどのような世界へ導くのか。この難題のヒントを提供するフォーラムが2005年6月、東京で開かれた。未来を見つめるフォーラムの開催を契機に今、住友グループ各社が取り組む技術革新の現場をいくつか紹介する。そのさまざまな角度から見た日進月歩の分野を訪ねることで、21世紀の社会の可能性が見えてくるはずだ。


未来予測フォーラム
 全面ガラス張りの近未来的な姿が印象的な泉ガーデンタワー。そのタワーを中心としたエリアの一角にある泉ガーデンギャラリーで開催されたフォーラムのタイトルは「100年後の未来技術の展望と夢」。主催は住友グループ各社のOB組織、住友老壮会である。同会は1952年に設立、各社でキャリアを築いてきたメンバーの交流を目的として年に4回、例会や講演会等をおこなっている。その演目になぜ100年後、なのか。
 「昨年、秋山富一 老壮会会長(住友商事名誉顧問)が未来について語り合うような会をやってみてはどうかと提案されたのがきっかけです。その時、会長は、1901年に新聞に掲載された『20世紀の予言』という記事を紹介しました。」
 と語るのはフォーラムのコーディネーター、パネラー役を務めた中原恒雄 住友電気工業顧問。
 およそ100年前の新聞記事には、無線電話の発明(携帯電話)や写真の遠距離通信(FAX)、電気燃料の登場など、20項目以上にわたる未来予測が掲載されていた。その内容は驚くほど現代社会の姿を言い当てている。
 「既に100年が経過した今、我々も未来を予測してみようと、今回のフォーラムが企画されたのです」(中原顧問)
 老壮会では、各社の現役社員の協力のもと「未来予測ワークショップ」を発足させ、予測する分野や内容について検討する一方、あらためて文献や資料の調査・研究を行った。
 発表はライフサイエンス、コンピュータ、世界情勢などの各分野を、5社がそれぞれに担当した。100年後の世界は『人口110億人』となり、『化石燃料は枯渇』するが、『核融合やバイオマスなど代替エネルギーが普及』する。『バイオテクノロジーの進歩』で医療、食糧問題も克服、生活圏は『海上・海中・地下へと拡大』し、家庭では『家事代行、介護などのロボットが共同生活』」するなど、科学的根拠をベースとした信頼性の高い予測が数多く提案された。
 当日は同会会員、各社現役社員も含めて総勢500名以上が参加、800m2に及ぶ広い会場をほぼ埋めつくす盛況のうちに終了した。
 では100年後の未来の夢を叶えるため、どのような挑戦が繰り広げられているのか。これから先はいわば、現在進行形の未来技術レポートである。


実現に向けて動き出した量子コンピュータ (NEC)

 スーパーコンピュータでも解くのに数千年かかる素因数分解をわずか数十秒で計算できるとしたら…。今、そんな夢のようなコンピュータが現実に向かって大きく前進し始めている。量子コンピュータである。
 現在のコンピュータのビットは、すべての情報を「0」か「1」で表している。量子コンピュータで用いる量子ビットも基本は「0」と「1」なのだが、その2つを重ね合わせた状態で表現しているのが特徴だ。つまり「1」であると同時に「0」であるというように、1つの量子ビットで複数の状態を表現できるのだ。この状態を利用すれば同時に複数の計算を行うことができる。いわば量子コンピュータとは、いくつものコンピュータを並列させたものといえる。
 しかし量子コンピュータの実現には、量子を重ね合わせた状態とともに、複数の量子ビット間の状態があたかも1つの物体であるかのように分離できない状態を形成することが不可欠となる。これを「量子絡み合いの状態」と言うが、固体素子でこの状態をつくり出すことは極めて難しい。
 2003年、NECは理化学研究所との協力により、この固体素子による量子絡み合い状態の形成に世界で初めて成功した。
 「最初から量子コンピュータの研究をしていたわけではなく、もともとは別の固体素子をベースにした単一電子デバイスを研究していました。その研究が量子コンピュータの可能性につながると考えたのが1997年頃からで、その当時はまさか本当に実現できるとは思っていませんでした。まだ解決すべき課題はたくさんありますが、この8年間で思ったより早く研究が進みました」
 と語るのは、このプロジェクトを主導してきた蔡兆申 NEC基礎・環境研究所主席研究員だ。現状ではまだ1〜2量子ビット程度の試作モデルだが、これが20〜30量子ビットというレベルになれば、現段階で最高のコンピュータの性能を抜くものになるという。「あと5〜6年くらいで量子ビットの集積化ももう少し進むでしょう」と蔡さんは言う。
 「NECとしては、量子コンピュータはフラッグシップの技術ですので、常に世界のトップランナーでいたいと考えています。しかし短期間で実用的なシステムをつくろうというものではなく、長期的な視点で基礎技術の開拓を続けていきたいと考えています」とは、萬伸一 同研究所量子情報テクノロジーグループ研究部長。
 量子コンピュータは、タンパク質反応解析や触媒材料解析など、膨大な事象の組み合わせをしらみつぶしに解いていくような演算に適している。また、盗聴が不可能な量子暗号通信にも応用できるという。
 量子コンピュータの実現には、あっという間にあと数十年というところにまできている。私たちの次の世代では、ひょっとしたら今のパソコンと同じような感覚で量子コンピュータを使うことになるのかもしれない。



瞬間的に変身する高機能ガラス (日本板硝子株式会社)
 瞬間調光ガラス「UMU」を初めて見た人は、きっと目を丸くして驚くに違いない。何しろこのガラス、普通の透明なガラスが次の瞬間には曇りガラスに変身するのである。
 実は2枚のガラスの間に液晶をコーティングした特殊なフィルムを挟んだ構造になっていて、電圧を加えるとこれが反応して、透明になったり、曇ったりするのである。近藤正之 日本板硝子ウムプロダクツ株式会社マーケティング部長・海外営業部長が仕組みについて説明してくれた。
 「液晶はある長さを持った分子で、通電していないと分子がバラバラになっています。そのため入って来た光が散乱して不透明になる。しかし、通電して電解がかかると分子は同じ方向にきちんと整列するので、その結果、光が直進して透明に見えるというわけです」
 「UMU」の液晶のコーティング層は膜厚約20マイクロメートル、というアルミ箔ほどの薄さ。これだけの薄い層になると均一にコーティングするのは至難の業だ。日本板硝子はこの技術に改良を重ねて、最大990ミリの大きさにまで製品化できるようにした。
 また、もともと屋内のディスプレイ用に開発されたためにネックとなっていた耐久性も強化し、窓ガラスやパーテーションなど屋外でも使用できるように改善した。
 「ワンタッチで外からの視界を遮ることもできるし、カーテンやブラインドのようにほこりがたまるということもないので、病院やオフィス、ホテルなどでよく使われています」(近藤部長)
 近年高まりつつあるプライバシー保護の解決策として、沿線の住宅に隣接する区間では電車の窓ガラスの視界を一時遮断するのに使われている例など、「UMU」は往来の領域を超えた新しいガラスの世界を切り開いている。時代の変化とともに、ガラスもまた進化を遂げようとしているのだ。


燃料電池の可能性を開く最重要部品 (住友金属工業株式会社)
 未来の社会を考える上で重要なキーワードとなるのがエネルギー問題。中でも注目を集めているのが燃料電池だ。
 環境に優しい電力供給源として期待されている燃料電池は、水素と酸素を化学反応させて電気を作る発電装置である。この燃料電池の最重要部品といわれているのが、表面に成形した溝に水素や酸素を通しながら、それぞれは透過させずに発生した電気のみを通すという、高度な働きをするバイポーラプレート(セパレータ)である。
 固体高分子形燃料電池の場合、このプレートの材料には安価で量産性に優れるステンレス薄板が最適とされてきた。しかしステンレスの表面には導電性の劣る不動態被膜があり、電気の伝導性が悪いという弱点がある。金メッキなどでその弱点をカバーしても、こちらはコストや性能の面で課題が多い。
 そのため、現状ではカーボンやグラファイトなどの材料が使われているが、これらは薄肉化したときの量産性や機械特性などに問題がある。これまでにも多くの企業がこのプレート作りの最適化に挑戦しながら、解決には至っていないのである。
 今回、住友金属が世界で初めて開発した高性能ステンレス薄鋼板は、溶鋼段階で安価な合金元素を添加し、鋼中に導電性の高い金属介在物を析出させて電気伝導性を確保するというユニークな手法をとっている。
 「耐食性を維持しながら伝導性を確保するには、析出物の大きさや質を均一にし、遍在しないようにする必要があります。しかも異物を含有した鋼材を割れないようにプレスするのは非常に難しいことなのですが、1分間に60枚の溝プレス、10万枚までの抜き加工を行っても、プレス金型含めて全く問題ありませんでした。既に燃料電池のバイポーラプレートとして6200時間以上の耐久性があることを確認し、現在では1万時間以上の耐久性評価試験を準備しています」
 開発の主軸を担ってきた樽谷芳男 住友金属総合技術研究所部長研究員は、「プロセス技術に豊富なノウハウを持っている当社だからこそできた」と胸を張る。
 この画期的な機能が評価され、同社のプレートはすでに日本のある大手自動車メーカーの燃料電池車に採用されている。
 自動車業界では現在、2010年から15年頃までには燃料電池車が量産車として市場に投入されると予測されている。実現すれば、各社がどのタイプの燃料電池を採用するかを決め、量産化へ向けた準備を始めるのは2007〜08年頃になるだろう。
 住友金属の先進技術が広く認知され、燃料電池車の普及とともに地球環境問題へも貢献する時がもう間もなくやって来る。


革新的なビスマス系超電導線 (住友電気工業株式会社)

 20世紀に夢の技術として話題になった超電導が、21世紀に入っていよいよ実用化の時代を迎えようとしている。その先陣を切り開くのが、住友電気工業の開発したビスマス系高温超電導線(HTS線)だ。
 従来、電気抵抗が0になる超電導現象は絶対0度に近い極低温下で起きるとされていたが、絶対0度近くまで冷却するには扱いにくく、コストもかかる液体ヘリウムを使わなければならない。
 しかし、HTS線は摂氏−163度で超電導状態になる。−163度程度ならばヘリウムよりはるかに安い液体窒素を使うことが出来て、それだけでコストはざっと10分の1以下になる。
 また、これまでビスマス系の線材は量産が難しかったが、同社は5年をかけて加圧焼成法という新しい技術と焼成炉設備を開発。単長1500メートルという世界最高の長さを量産できる体制を整えた。
  「超電導線の電流を通りやすくするためには線材の密度が重要になりますが、この新しい技術と設備で焼成することで、ほぼ100%の密度を持つ線材が量産できるようになりました」と佐藤謙一 住友電気工業・電力・エネルギー研究所長兼超電導開発室長は説明する。
 この線材で作ったケーブルは電気抵抗がなく、1本に150アンペア程度の電流を流すことができるという。従来の銅線で100アンペアの電流を流すには、大人の親指くらいの太さが必要だが、HTS線ならばはるかにコンパクトにできてしまうというわけだ。
 しかも抵抗がないので、電気を流しても発熱せず、メンテナンスも容易である。地下に埋設する場合は、従来ならば保守点検の人間が通るために直径2メートル程度の洞道(トンネル)を掘らなければならなかったが、HTS線ならばわずか15センチ程度ですむようになる。
 同社はこのHTS線を利用した全超電導モータの開発に参加している。早ければ来年にもこのモータを搭載した超電導船が就航する予定だ。また、米国ニューヨーク州のHTS線電力ケーブルの世界初の長尺管路実線路プロジェクトにも参画している。米国では2030年までに全国に超電導電力網を構築する計画があり、同社のHTS線が全米に張り巡らされる可能性もあるという。
 「超電導ケーブルを使うと輸送ロスがなく、超長距離送電が可能になります。世界中にこのケーブルを張り巡らして、電気をあまり使っていない国から、たくさん電気を使う国へ電力を融通するということも簡単にできます。近い将来、アフリカの太陽光発電や風力発電で作った電力を日本に送る、といったことも可能となるでしょう」(佐藤所長)



糖鎖が変えるバイオテクノロジーの世界 (住友商事株式会社)
 不老不死やエイジレスなど、健康に関する夢は人類永遠のテーマである。その夢もライフサイエンス技術の進歩で身近なものとなってきた。
 住友商事が2003年に設立したサミット・グライコリサーチ社(以下SGR)は今、生命科学の分野で大きな注目を集めている糖鎖(とうさ)に着目したバイオベンチャーである。
 糖鎖はグルコースなどの単糖が鎖状に連なった物質で、生体内で機能する重要なタンパク質のほとんどに付いている。これまではDNAやタンパク質の陰に隠れた存在だったが、最近の研究でこの糖鎖が生体現象で重要な役割を果たしていることが分かってきた。そのためDNA、タンパク質に続く第3の生命鎖といわれているほどだ。
 SGRはこの糖鎖の研究者として優れた実績をあげている東京大学の入村達郎教授と山本一夫教授の研究成果をベースに、事業化を進めている。
 「糖鎖は遺伝子よりも種類が多く、生命の維持や疾病のメカニズムにも深く関わり、細胞間の情報伝達にも関係しています。糖鎖を利用すれば、細胞の老化やウィルスの感染性などを見分けることもできます。我々はレクチンという糖鎖を認識するタンパク質を使って、糖鎖を持つタンパク質や細胞を区別するシステムの研究を行っています」(入村教授)
 このレクチンは従来、糖鎖の多様性に見合うだけの種類がなかったが、入村教授は遺伝子を改変してレクチンを多様化し、量産化することに成功した。この技術を生かして同社が開発したのが、糖鎖を持つ複雑な糖タンパク質分子や多様な細胞を解析するためのツール、レクチンチップだ。
 「このツールを使えば、遺伝子やタンパク質の異常が発見される前に、糖鎖が変化した段階で病気を見つける超早期診断も可能になります。また、尿や唾液を検体にした、痛みを伴わない新しいマーカーの開発なども進めています」(伊藤潤平 SGR研究開発本部長)
 糖鎖を利用して、新しいバイオ医薬品を開発する可能性も見えてきた。
 「体内のタンパク質を試験管の中で人工的に作るのは簡単なのですが、出来た人工タンパク質を体内に入れてみると、もとのタンパク質のようにきちんと働かないことが多い。これは糖鎖にコードされた情報が微妙に違うからです。この糖鎖の情報を把握できるようになれば、糖鎖を思い通りに作って既存のタンパク質に付加し、新しいタンパク質として働かせることも可能です」(山本教授)
 例えば腎臓で働くタンパク質の糖鎖を改変して別の臓器で働かせ、その臓器の病気に効くようにするといったこともできるという。
 「山本先生の立ち上げた技術をベースに、さらに有効で使い勝手のよい、性能の優れた糖タンパク質医薬品を開発する、あるいは開発する技術を確立するのが当社のもう一つの柱です」(堀本泰三 SGR社長)
 癌は20世紀中に克服できるといわれていたが、残念ながら転移した癌を根治する方法はまだできていない。入村教授は、癌の転移をレクチンでコントロールするというテーマの研究も進めている。
 今は社員17名の小さなベンチャーであるSGRだが、21世紀の新しいバイオテクノロジーの一翼を担うのもそう遠くない将来だといえるだろう。
 人間は誰でも未来を見ることはできない。しかし、今ある財産を見つめ、明日の自分たちの姿を予測することはできる。技術的可能性の探求に主眼を置き、それに向かう道のりの中で現時点を認識し、さらに未来技術の予測を糧に、現在の夢を未来につなげることはできる。
 100年後を考えるフォーラムを機に、住友グループ各社の先進技術を巡った。実際にこの中から多数の技術革新が進み、実現する可能性もあるだろう。先端技術の先陣たちは、今もさらなる未来へ向けて駆け続けている。



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